母と一緒に母の姉である伯母の面倒を看てきた真理子さん(仮名)。伯母は母と真理子さんへの財産相続を希望していたものの、ある日母が急死…全部で10人いる相続人のなかから真理子さんへの相続を実現させるための方法には養子縁組と公正遺言証書の作成、二つの方法があるそうで。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)はどちらの方法を提案したのでしょうか。
養子縁組の申請を出していいのか?
そうしたことからも伯母の介護は母親と真理子さんが引き受けていく暗黙の了解ができていました。伯母からも母親と真理子さんに頼むと言われていますし、伯母はМさんと養子縁組してもよいとも言ってくれています。
養子縁組すれば、戸籍上、真理子さんは伯母の子どもとなりますので、きょうだいに相続権が発生することはありません。この養子縁組の申請書は伯母もМさんも記入が終わっていて、いつでも出せる状態だといいます。
この養子縁組の申請を提出したほうがいいか? ということもご質問のひとつでした。養子縁組をしない場合は、遺産分割協議が必要になりますが、人数が多いと大変です。
伯母の意思は財産は真理子さんに渡すとのことで固まっているというので、遺言書を作成する方法も取れます。
養子縁組?遺言書で遺贈?メリット・デメリット
養子縁組のメリットは、相続人がひとりになり、争いはなくなります。デメリットは相続税の基礎控除が1人分の3,600万円しかありません。
遺言書のメリットは遺産分割が不要で伯母の意思が実現できます。きょうだいしまいには遺留分の請求権がないので相続の仕方が確定できます。基礎控除は法定相続人分をカウントできるので、9,000万円のまま。デメリットは遺言書の作成に費用がかかり、証人も必要になります。
相続税がどれくらい違うか?
それぞれの相続税の概算を比べてみました。
財産は9,400万円
相続人1人・養子縁組→ 相続税1,040万円
相続人10人・遺言書→ 相続税40万円
基礎控除が9,000万円あるのと、3,600万円しかないのとでは、相続税は養子になってしまうと26倍になるのです。
このように相続税を比較すると、争いを避けるためによかれと思って養子縁組をすると、思わぬ落とし穴で相続税が跳ね上がるということが想定されました。この内容を伯母にも説明し、公正証書遺言を作る方向で決まりましたので、準備を進めています。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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