後継者・長男へ遺産の大半を渡したい…社長・父の相続発生後、「遺留分」を求める二男とのトラブルを防ぐ「遺言書の中身」【弁護士の助言】

後継者・長男へ遺産の大半を渡したい…社長・父の相続発生後、「遺留分」を求める二男とのトラブルを防ぐ「遺言書の中身」【弁護士の助言】
(※写真はイメージです/PIXTA)

遺言書を作成する際は、遺留分に注意しなければなりません。自分の遺留分を侵害する遺言書があったら、どのように対応すればよいのでしょうか? また、相続発生後に子どもたち同士でもめさせないには、生前にどのような対策ができるでしょうか? 本記事では、遺留分と遺言書との関係、遺留分への対策について、Authense法律事務所の堅田勇気弁護士が詳しく解説します。

生前にできる主な遺留分対策

遺留分があることを知っていても、遺留分を侵害せざるを得ない場合もあるでしょう。たとえば、財産の大半が自身の経営する会社に関連するものでありその跡継ぎが長男である場合や、財産といっても現在長男一家と同居している自宅不動産だけである場合などです。では、財産を遺す側の立場として、生前にできる遺留分対策としてはどのようなものがあるのでしょうか? ここでは、次の前提で解説します。

 

・本人(遺言者):父
・将来相続人となる予定の人(「推定相続人」といいます):長男と二男の2名
・遺言者の悩み:長男に多くの遺産を相続させたいが、二男の遺留分が気がかりである

 

(前提)遺言書を作成する

遺留分対策をする場合、遺言書を作成することが大前提です。遺留分は、遺言書や多額の生前贈与があった場合に初めて登場する概念であるためです。せっかく遺留分対策をしても、遺言書を作成しなければ本末転倒であることには注意してください。

 

遺留分を放棄してもらう…ただし、原則「見返り」が必要

生前にできる遺留分対策のうち、もっとも強力な効果を発揮するのは、遺留分の放棄です。被相続人の生前に「相続放棄」をすることはできない一方で、「遺留分放棄」は生前に行うことができます(民法1049条1項)。

 

ただし、遺留分放棄はたとえ財産を遺す人(父)であっても強制的にさせることはできず、推定相続人である遺留分権者(二男)が自らの意思で行わなければなりません。そのため、生前の遺留分放棄は父と二男との関係性がよく、二男が遺留分放棄について前向きであることが大前提です。

 

また、生前の遺留分放棄には、家庭裁判所の許可が必要です。許可を受けるには放棄する者本人の意思であることのほか、父から二男に生前贈与をするなどいわゆる「見返り」が必要となることが原則であり、申立てさえすれば許可されるものではありません。

 

生前の遺留分放棄をしたい場合は、弁護士への相談を勧めます。弁護士へ相談することで、そのケースで遺留分放棄が許可されそうかどうか見通しを立てることが可能となります。

 

生命保険を活用する

原則として、生命保険は遺留分計算の基礎に含まれません。そのため、遺産となるはずであった預貯金などを生命保険の掛金とすることで、遺留分計算の対象額を減らすことが可能となります。

 

例のケースでは、遺言者である父が生命保険の契約者かつ被保険者となり、死亡保険金の受取人を長男とすることが考えられます。ただし、遺産の大半を生命保険とするなど、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」には、生命保険であっても例外的に遺留分の対象となる可能性があります(最決平成16年10月29日)。

 

そのため、あまり極端な対策は避けるととともに、実際に遺留分対策を講じようとする際は弁護士へ相談することをお勧めします。

 

家族会議などで理解を求める

家族会議で理解を求めることも、生前にできる遺留分対策の1つです。遺留分トラブルは、家族間のコミュニケーション不足などから生じることが少なくありません。

 

たとえば、父の遺産の大半が自社株など経営に必要な資産であり、後継者である長男に遺産の多くを相続させたいとします。この場合、生前のコミュニケーションがなく、父の死後はじめて「遺産の大半を長男に相続させる」旨の遺言書の存在を知った二男は、自分の遺留分が侵害された事実を不服に思い、遺留分侵害額請求をする可能性が高いでしょう。

 

一方で、自社株は簡単に換金できるものでないことや、後継者には会社との連帯保証などのリスクもあり、単に財産を渡すのとは大きく異なること、長男と二男との遺産の配分が異なることは愛情による差ではないことなどを生前に丁寧に説明することで、二男が遺産の配分に納得しやすくなります。その結果、相続発生後に二男が遺留分侵害額請求をする事態を避けやすくなる効果が期待できます。

 

なお、家族会議を経た結果、二男が「遺留分は請求しない」などの一筆を書いたからといって、法的に遺留分放棄の効力が生じるわけではありません。先ほど解説したように、遺言者の生前に遺留分放棄の効力を法的に生じさせるには家庭裁判所の許可が必要です。そのため、家族会議で二男の理解を得られたら、正式に遺留分放棄をしてもらうことも検討するとよいでしょう。

遺留分の侵害は、相続発生後にトラブルとなりやすい

遺留分と遺言の関係について解説しました。

 

遺言は、遺留分を侵害する内容のものであっても有効です。しかし、遺留分の侵害は遺留分侵害額請求の原因となり、相続発生後にトラブルとなるおそれがあります。そのため、遺留分を侵害する遺言書を作成しようとする際は弁護士へ相談し、遺留分対策も検討するとよいでしょう。

 

 

堅田 勇気

Authense法律事務所

 

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