相続税のない国が多いアジア・オセアニア地域
日本の相続税の最高税率は55%と世界的にも高い水準です。アジア・オセアニア地域でみると、香港、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドには相続税がありません。
富裕層のなかには「被相続人が相続税のないシンガポールに移住すれば、相続税の課税から逃れられる」といった誤った理解をする人がいます。
相続税の課税から逃れられる状況というのは、被相続人、相続人、相続財産を国外に移転して、10年間、この状態を維持すれば、日本における相続課税はないという計画です。したがって、被相続人の海外移住だけでは、租税回避はできません。
税制改正で計画が狂った海外移住者も
2017年度税制改正は、租税回避防止の観点から、相続人または被相続人等が10年以内に国内に住所を有する日本国籍の者の場合、国内および国外双方の財産が課税対象となりました。この改正により、従前の5年という期間が10年に延びたことで、5年を想定して海外移住を行っていた者にとっては、当初計画が狂ったことになりました。
改正箇所は次の2点です。
国内に住所を有しない者であって日本国籍を有する相続人等に係る相続税および贈与税の納税義務について、国外財産が相続税または贈与税の課税対象外とされる要件が、被相続人等および相続人等が相続開始前または贈与前10年(改正前:5年)以内のいずれの時においても国内に住所を有したことがないこととされました
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国内に住所を有しない者であって日本国籍を有しない相続人等が国内に住所を有しない者であって相続開始前または贈与前10年以内に国内に住所を有していた被相続人等(日本国籍を有しない者であって一時的滞在をしていたものを除きます)から相続もしくは遺贈または贈与により取得した国外財産が、相続税または贈与税の課税対象に加えられました。
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相続人が①国内に住所なし、②10年以内に住所ありまたは10年以内に住所なしの場合であっても、国内・国外財産に課税ということです。
さらに、被相続人が国内に住所なしで、10年以内に住所ありの場合、相続人が日本国籍で、10年以内に住所ありまたはなしのいずれであっても、国内・国外財産に課税ということです。
その結果、納税義務者は、次のように分類されることになりました。①居住無制限納税義務者、②非居住無制限納税義務者、③居住制限納税義務者、④非居住制限納税義務者、です。
日本の経営者のなかには移住計画を実施した者がいましたが、2017年度税制改正によって5年が10年に延びたことで、計画が破たんし、日本に帰国した人もいました。
なお、国税庁によると、富裕層による申告漏れ所得は2022事務年度に計980億円で、統計を取り始めた2009年度以降で最も多かったということです。
非居住制限納税義務者がいる場合の相続税
以下のような設例を考えてみました。
①被相続人(外国に10年以上居住)、②相続人(子のA、日本居住)、相続人(子のB、外国籍で日本に住所なし)、③相続財産(国内財産1億円、国外財産1億円)④相続財産の分配:AとBで均等に相続
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被相続人は、外国に10年以上居住なので、国内に住所なし、かつ10年以内に日本に住所なしということで、非居住被相続人ということになります。
相続人のAは、日本に住所ありということで居住無制限納税義務者となり、国内財産および国外財産を共に課税となります。
相続人Bは、国内に住所なしで、かつ、日本国籍なしということで非居住制限納税義務者となり、国内財産のみが課税となります。
AとBは、それぞれ国内財産の5,000万円と国外財産の5,000万円を相続します。
Aは居住無制限納税義務者ですので、国内財産の5,000万円と国外財産の5,000万円が課税対象になります。Bは非居住制限納税義務者ですので、国内財産5,000万円のみが課税対象になります。
結果として、課税財産はAの相続分1億円とBの相続分5,000万円の合計の1億5,000万円です。ここから基礎控除額3,000万円+600万円×2=4,200万円を控除します。
次に、法定相続人の取得金額を計算します(1億800万円÷2=5,400万円)。ここで算出税額を計算して、算出税額を合計して相続税額が計算されます。
結論としましては、海外移住という手法による租税回避は、相当に難しい状況になるといえるでしょう。
矢内一好
国際課税研究所首席研究員
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