若者より症状の表出に乏しい高齢者
高齢者は入院によりさまざまな健康リスクを抱えやすくなり、長期に及ぶほどそのリスクは高くなります。
身体活動が制限されるために筋力の低下や身体機能の衰えは避けられず、筋肉の萎縮や関節の可動域の制限が進みやすくなります。これにより、ADL(日常生活動作)が低下し転倒リスクも高まります。また、免疫力の低下などから感染症リスクも高いため、入院後も肺炎や尿路感染症への注意が必要です。入院が長期にわたると嚥下機能の低下などから低栄養に陥る恐れもあります。こうしたことから入院時にはなかった疾患を新たに発症してしまったり、フレイル(虚弱状態)になったりするケースもあり、そのために退院が先延ばしになるといった悪循環に陥る場合も少なくありません。
これらを防ぐためにも看護師は日々のバイタルサインのチェックや観察を通して異変を早期に察知し医師に報告することや、適度に体を動かすことが望まれる患者にはそのように声かけをしたり、栄養状態をチェックして必要と判断すれば適切な栄養補給ができるようにしたりするなどの対応が求められます。
これらは高齢者限定というわけではありませんが、高齢者は若い世代に比べ病気に対する体の反応が弱いため、はっきりとした症状が現れず、発見しにくいのが問題です。
例えば風邪やインフルエンザなどの感染症にかかっても、発熱などの症状の程度が若い世代よりも弱いケースが多く、気をつけていないとあっという間に肺炎に移行してしまうこともあります。また、高齢者はここが痛い、調子が悪いなどと訴えが多い割には、言葉でうまく表現できない人も多いため、本当は何に困っているのかを聴く側が考え解釈しなければならないこともよくあります。なんとなく元気がない様子を、たまたまだとか年のせいと思い込み、あとになって重大な病気が発覚したなどというケースも少なくありません。
さらに、看護は患者の個別性や価値観を尊重することが大原則ですが、高齢者の疾患は症状の出方や大小に個人差が大きく、若い世代に比べ一層の個別対応が必要になります。価値観についても、これまで生きてきた年月が長く、経験値も豊富な分、こだわりが強い人もいて、正直なところ手を焼くケースもよくあると思います。
このようなことから高齢者には若い世代よりもきめ細かな目配りやケアが必要なうえ、何人も担当しなければならないので、看護師の気疲れは相当なものになります。毎日のことで慣れているから、と気丈にふるまっていても、仕事が一区切りすると何もする気になれないほど消耗していることに気づく、そんな経験は一度や二度ではないはずです。
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