より安全な医療の提供へ
2021年に、地方独立行政法人神奈川県立病院機構・神奈川県立こども医療センターで手術を受けた患者が、術後に状態が悪化し死亡する事故が起こりました。これについて2023年に病院側が会見を開き、必要な検査や処置を行わず不適切な対応だったとして謝罪しています。この事故はメディアで大きく取り上げられ、記憶に新しい人も多いと思います。
そのときの記者向け発表資料から概要を抜粋すると、患者は手術を受けるため2021年9月28日(火)に入院、10月6日(水)、手術は終了。術後3日目朝から39℃台の発熱、その後、繰り返す水様性下痢を認め、術後4日目は40℃を超える発熱、脈拍140回台/分を超える頻脈を認めました。そして術後5日目未明に急変、心肺蘇生を行ったが自己心拍の再開なく、死亡したというものです。
事故後に設置された調査委員会による調査結果報告には、心肺停止の原因としては、敗血症の可能性、下痢症に伴う脱水症、低カリウム血症による全身状態の悪化、非代償性ショックが関与した可能性があるとし、一般病棟移床の前後の術後3日目から発症していた発熱、頻脈および下痢嘔吐に対して原因検索や状態評価のための検査が実施されておらず、また頻脈や水分バランスからみて脱水症を考慮して輸液療法が必要であったところが行われていなかったこと、また5日目の急変時には適切な評価やモニタリングが行われず心肺蘇生開始のタイミングを逸していたことなどが記されています。
図表1の経過を見ると、看護師は患者の術後の発熱が続いていることに疑問を持ち、当直医師に相談をしています。しかし当直医師は「担当科医師(術後管理担当医師と思われます)が術後熱と判断しているので、翌日担当科医師に相談するように」との指示だけで済ませていることに疑問を抱きます。 あくまで報告書に記載の範囲での考察ですが、この時点で医師の介入があれば違った経過をたどり、 最悪の事態を免れたかもしれません。
報告書には術後管理が経験の乏しい医師任せになっていたとの指摘もありましたが、当直医が「担当医が術後熱と言っているんだから問題ないのだろう」と、発熱が続いていることに対し「なぜ」なのかと(おそらく)疑問を持たなかったことに根本的な問題があるように思えてなりません。
病院に「なぜ」と疑問を持たない医療従事者がいると、医療事故に繋がりやすい
この痛ましい医療事故から得られる教訓は、 「なぜ」と疑問を持たなければ医療安全が脅かされることです。これはこのケースが示すとおり、医師も例外ではありません。看護師が「なぜ」を発端に患者の状態を把握し、必要に応じ検査を行うことに対し、安全に行えるのか、医師でなければ医療安全が担保されないのではと疑問を持っている人もいるかもしれませんが、まったく逆であると私は考えます。
まず、検査を安全に行えるかについてはプロトコール(患者への対応フロー)のとおりに実施すればいいのと、 検査をする看護師は行えるだけの能力、スキルがあることが条件になりますので問題ありません。
そして、患者への対応については、この小児専門の総合病院での事故が示すように、事前の指示どおりでは見過ごしてしまう恐れのある状態の急変を、患者の近くにいる看護師ならいち早く気づくことができるので、むしろより医療の安全は強化されると考えられます。
かえって「発熱時には解熱剤」といった指示に対し、その妥当性を考えようとせずただ指示どおり行ってしまうほうが、医療の安全が脅かされかねない事態を招く恐れがあるのです。
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