本記事のポイント
・大暴落は思ったほど稀ではない
・予知はできない、備えるのみ
大暴落は思ったほど稀ではない
マネックス証券インベストメント・ストラテジーズ兼マネックス・ユニバーシティ・シニアフェローの塚本憲弘は、8月5日の日経平均株価の下落率マイナス12.4%について、
と書いている(2024年8月19日付『サプライズは繰り返さないが韻を踏む』)。まさに天文学的確率でしか起こりえない変動率である。しかし、彼自身も述べているとおり、計算上、何万年に1回しか起こらないというような株価変動は、実は頻繁に起きている。
「100年に一度の危機」と呼ばれたリーマンショック。発生から半年ほど経ったある日、ゴールドマン・サックスの最高財務責任者(CFO)のデイヴィッド・ビニアが上院行政監察小委員会で証言に立った。
その小委員会は、金融危機におけるゴールドマン・サックスの役割について調査していた。ゴールドマン・サックスは、一般的なリスクの評価については完璧に責任を果たしており、単にきわめて異常なショックに見舞われただけだというのが、ビニアの主張だった。自分たちは不運きわまりなかった、というのだ。ビニアは、最悪の日々の混乱を振り返って、「私たちは何日か続けて、25標準偏差に相当する価格変動が起こったことに気づいていました」と発言した。これはおそらく、アメリカの歴史上、連邦議会の委員会での発言としては最も荒唐無稽なものだろう。
ビニアが計算などしていなかったのは明らかだった。正規分布曲線では、中心から8標準偏差に相当する事象ですら、その発生確率は宇宙の一生のあいだに一回程度しかない。25標準偏差となると、10の135乗年(1の後に0が135個続く数だ)に一回という確率になる。これは当選確率が100万分の1の宝くじに23回連続で当たる確率と同じだ。そんな事象が3日連続で起こったというビニアの愚かな主張に対する反響は大きかったが、その1つが、オスカー・ワイルドの有名な一節をもじった、次のようなものだ。
以上は、マーク・ブキャナン著『市場は物理法則で動く 経済学は物理学によってどう生まれ変わるのか』という書籍からの引用である。
「正規分布曲線では、中心から8標準偏差に相当する事象ですら、その発生確率は宇宙の一生の間に一回程度しかない」という。前段の8月5日の日経平均株価の下落率マイナス12.4%は塚本の計算によれば平均から9.6標準偏差離れているから、やはり宇宙の一生のあいだに一回程度しかない。われわれはリーマンショックから20年も経たないうちに、宇宙の一生の間に一回程度しかない株価変動を2回(いや確実にそれ以上)も経験したことになる。
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