本記事のポイント
・暴落の要因は日銀の利上げ
・最悪を想定して最善を望む
・ベストな選択は「Stay in the market」
暴落の要因は日銀の利上げ
激震の1週間が終わった。日経平均はブラックマンデーを超える史上最大の下げ幅を記録し、その後も大きな値幅での乱高下が続いた。宮崎県では最大震度6弱を観測する地震が発生、南海トラフ臨時情報の「巨大地震注意」が初めて発表された。株式市場も日本の大地も大揺れに見舞われた真夏の1週間だった。
史上最大の暴落の要因について、当初いろいろなことが言われたが、いまとなっては最大の要因がはっきりした。筆者はこの大暴落が起こる前からこう指摘している。
今後のリスクとしては、次の利上げを日銀が急ぐかどうか。その必要はまったくないのだから、もし日銀がそのような姿勢を見せれば市場はそれに対してネガティブ視するだろう。(中略)インフレ抑制で実質賃金増を促し、家計の消費マインドに貢献する――そうしたこととは関係なく、ただ金融政策正常化という錦の御旗のために利上げするのであれば、市場は強烈にNoを突き付けるだろう。
(7月31日付ストラテジーレポート『日銀の利上げについて』)
この見方を決定づけたのは、8月6日、史上最大の暴落の翌日、日経平均が大きく反発し史上最大の上げ幅を記録した日である。東証が全面高になるなか、三井住友FG(8316)の株価は逆行安となった。業種別騰落率の最下位は銀行であった。7月31日~8月6日までの急落局面で最も売られたのが銀行である。
相場がリバウンドに転じたならば、リターン・リバーサルの効果もあって、大きく売られたものは大きく戻すのが普通である。ところが銀行株は上がらなかったのである。これはなにを意味するのか。同日夜、出演したBSテレビ東京NEWS NEXTで筆者は以下のようなことを述べた。
八木キャスター:今回の歴史的乱高下における広木さんの注目セクターは「銀行」とのことです。
広木:銀行を注目しているのは、上がるからという意味ではなく、注目しなければならない、という意味です。今日もこの『マーケットの大変動』というテーマでお話ししてきました。その要因について、いくつも(暴落の要因の)材料が出ました。しかし、突き詰めてみると、日銀の利上げだと僕は思います。根本的なところは。日銀の利上げが、マーケットを壊したのだと僕は思っています。
つまり、今後、日銀が利上げを淡々と粛々と進めていけるのかという話です。今日の、この史上最大の上げ幅のなかで一番業種のパフォーマンスが悪かったのは、なんでしょう? 銀行株ですよね。昨日(8月5日)、あれだけ売られた銀行です。ところが戻ってもいいのに、まったく上がらない。銀行のパフォーマンスが一番悪いのです。ということは、ここから先の金利上昇にマーケットがNOだと、否定を突きつけた結果じゃないかと僕は考えています。
小柳キャスター:金利上昇がもうあり得ないよ、と。
広木:そういうメッセージを市場が出してるのではないかと思うのです。
筆者の意見を集約すると、以下のとおり。
今回の急落の要因は、突き詰めれば日銀が金融引き締めに転じたことである。金融政策正常化という錦の御旗のもとに市場のセンチメントや経済情勢を慮る素振りが感じられない、そのスタンスに市場が反旗を翻したものである。史上最大の下げ幅の翌日は史上最大の上げとなった。
しかし、その日の上昇率ワースト業種は銀行であった。これがまさに市場の答えだ。日銀のスタンスにNOを突き付けたのである。銀行は利上げの恩恵を受けるセクターの代表だ。それが全面高のなか上がらないということは、日銀がこれまでのように自分勝手※に利上げができないことを示唆している。
この番組が放送されたのは8月6日夜である。内田真一・日銀副総裁は7日、金融経済懇談会で講演し「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」と述べた。「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続けていく必要がある」とも語った。
市場が「日銀プット」を引き出したのである。今後は市場と日銀の対話が上手くいけば、マイルドな金融政策正常化のもと企業収益の伸びのトレンドに沿って上昇基調を辿ることもじゅうぶんにあり得る。
しかし、信用、あるいは信頼関係というものは一度失うと、それを再び取り戻すには長い時間がかかるものである。失うのはあっという間。取り戻すには時間がかかる(筆者も60年の人生で、痛いほど経験し、学んできた真理である)。相場格言にもある。「上昇100日、下げ3日」だ。
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