(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。「アジアリサーチセンター」のレポートを基に、2024年7月のアジア・マーケットを振り返ります。

 

2024年8月のアジア・マーケット・マンスリー(前半)はコチラ>>

インド<金融市場動向>

⇒株式は底堅い動き、金利は低下余地を探る動き、ルピーは下落リスク

 

【株式市場】

◆大手ソフトウェア企業の決算良好

市場の事前予想を上回る良好な業績を背景に大手ソフトウェア企業の株価が堅調に推移。総選挙後初となる予算案においてキャピタルゲイン税の引き上げが盛り込まれ株価が軟調となる局面があったものの影響は限定的だった。インド株式市場は、引き続き安定的な経済成長が期待できることや、堅調な企業業績が見込めることなどから相対的に底堅い値動きになると想定。

 

SENSEX指数

 

【債券(国債)市場】

◆債券利回りは当面もみ合い、低下余地を探る動き

政策金利の据え置きが続くなか、インフレ指標安定化の期待もあって、長期金利は数ヵ月スパンでもみ合いからやや低下基調の動きとなっている。今後も財政政策にサポートされ堅調な景気状況が継続しやすいが、準備銀行のインフレ抑制的な姿勢は続くと見られる。来年半ばには利下げ実施の可能性も高まることで、債券利回りは当面もみ合いながら、緩やかに低下余地を探る展開を想定する。

 

10年国債利回り

 

【為替市場】

◆ルピーは下落リスク

7月23日に公表された予算案では財政規律が確認され、金融政策では準備銀行は8月8日に市場予想通り政策金利を据え置いたため、政策姿勢はルピー支援内容である。一方、リスクオフ局面で高金利通貨のインドルピーはキャリー巻き戻しに遭ったと解釈できる。また、景気好調で輸入上振れを通じて貿易赤字が拡大しやすいこともルピー安要因とみる。更に準備銀行が7月29日に外国人投資家の国債投資に制限を課すと公表した。7月下旬以降は株式投資キャピタルゲイン課税強化で株式から資本流出が確認できたが、今後は債券からの資本流出の可能性もある。ルピー下落リスクに留意したい。

 

為替レート

インド<マクロ経済動向・政策>

⇒政策枠組みの継続を見込む

 

◆財政規律の維持・公共投資の拡大

シタラマン財務相は7月23日、2024/25年度の政府予算案を国会下院に提出した。2月1日の暫定予算と比較すると、財政赤字のGDP比は▲4.9%と0.2ポイントの改善となった。また、2025/26年度の財政赤字のGDP比目標を▲4.5%とし、財政規律の維持を明確にした。また、資本支出(=公共投資)を前年度実績に対して+17.1%と2桁増で設定しており、公共投資が引き続き拡大する政策枠組みを維持した。

 

政府予算案

 

◆準備銀行は大幅な利下げに慎重姿勢

8月8日の決定会合で準備銀行は市場予想通り政策金利を据え置いた。ダス総裁は記者会見で、インド景気の強さを強調しつつ、インフレ監視を続けるとし、トーンはタカ派になった。準備銀行は7月18日に発行したmonthly bulletin(月刊ニュースレター)内で、潜在成長率の上方修正を反映して自然利子率が2024年1-3月期に1.4~1.9%へ上昇したとの調査結果を明らかにした。期待インフレ率が4.5%と想定すれば、利下げを行うにしても合計で0.5%ポイント程度の小幅にとどまるというメッセージと解釈できる。リスクプレミアムも想定すれば、利下げなしもありうる。米国でリセッション警戒と大幅な利下げ観測が浮上していることとは対照的な金融環境になっている。

 

政策金利と国際利回り

 

◆異常気象による食料品インフレ上振れに留意

雨季(6~9月)の降水量が不足すると、夏季に農産物インフレが上振れしやすくなる。6月後半に一時的に降雨量は長期平均を下回ったが、7月はほぼ長期平均に沿った降雨量となった。しかし、大雨による洪水、熱波といった異常気象がたまねぎなど農産物価格を押し上げるようになっており、7月の消費者物価上昇率はベース効果で鈍化を見込むものの、8月以降は食料品インフレ主導で消費者物価上昇率上振れリスクに留意したい。

 

消費者物価上昇率

ベトナム ←ピックアップマーケット

⇒株価は上昇へ、ドンは上昇

 

【株式市場】

◆一進一退で推移

月前半は、第2四半期GDP成長率が市場の事前予想を上回ったことなどが好感され上昇。その後は、ベトナム大手航空会社の株価が下落し指数を押し下げたほか、共産党最高指導者の健康状態に関する懸念もあり、月後半にかけて売り圧力が強まった。海外からベトナムへの直接投資関連では、電子機器受託生産の大手企業であるフォックスコンによる工場投資が認可されたことなどが発表された。投資戦略としては、海外企業によるベトナム進出の恩恵が期待される銘柄、若い人口構成と所得増加の後押しがある消費関連銘柄、ツーリズム関連銘柄などを長期目線で有望視できそうだ。

 

VN指数

 

【為替動向】

◆ドンは上昇

6月下旬以降、米ドルが緩やかに下落しているため、ドンの対米ドルレートは緩やかに上昇を始めた。米国の利下げ観測に変化がなければ、ドンは上昇しやすい。7月19日にグエン・フー・チョン書記長が死去したが、同氏の右腕といわれるトー・ラム国家主席が2026年任期切れまで書記長を兼務することを8月3日に党が決定したため、政治はいったん安定推移し、ドン安としては作用しないと判断する。

 

ベトナムドン

 

【マクロ経済動向】

◆主要経済指標が改善

7月の主要経済指標は改善し、景気回復が続いていることを示唆した。米ドル建て輸出は前年同月比+19.1%と、6月の同+12.4%から加速した。鉱工業生産は同+10.9%から同+11.2%へ加速、小売売上高は同+9.1%から同+9.4%へ加速した。

 

主要経済指標

 

 

石井 康之

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフリサーチストラテジスト

 

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