(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。2024年10月のマーケットを振り返り、「1. 概観、2. 景気動向、3. 金融政策、4. 債券、5. 企業業績と株式、6. 為替、7. リート、8. まとめ」のそれぞれについて解説します。

1.概観

【株式】

10月の主要国の株式市場は、日本を除き下落しました。米国株式市場は、米景気のソフトランディング(軟着陸)観測が強まり、一時最高値を更新しました。しかし、11月5日の米大統領選挙を控えたリスク回避の動きなどから月末にかけて値を崩し、前月比で下落して終了しました。欧州の株式市場は、製造業を中心に業績の下方修正が発表され、軟調な展開となりました。一方、日本株式市場は、米景気のソフトランディング期待や円安進行を背景に投資家のリスク選好姿勢が強まり、4ヵ月ぶりに上昇しました。衆議院選挙で与党が過半数割れとなりましたが、経済対策の規模拡大期待などが相場を後押ししました。中国株式市場は、前月の急上昇の反動もあり、上海総合指数、香港ハンセン指数ともに反落しました。

 

【債券】 

米国の10年国債利回り(長期金利)は、9月の雇用統計を受けて米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペースが緩やかになるとの観測が広がったことなどから大幅に上昇しました。ドイツの長期金利は、欧州中央銀行(ECB)が10月の理事会で追加利下げを決めたものの、米長期金利に連れて上昇しました。日本の長期金利も、米長期金利の上昇などを受けて上昇しました。

 

【為替】

円の対米ドルレートは、米長期金利が大幅に上昇したことや日銀の早期利上げ観測の後退もあり、先月末の143円台半ばから152円近辺に下落しました。

 

【商品】

原油価格は、中東情勢の緊迫化がやや緩和したものの、石油輸出国機構(OPEC)プラスの増産が延期されるとの報道などから上昇しました。

 

10月の市場動向

2.景気動向

<現状>

●米国の7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.8%と、前期の同+3.0%から減速したものの堅調な個人消費が牽引し高成長を保ちました。

 

●欧州(ユーロ圏)の7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.5%と、パリオリンピックのプラス効果もあり、前期の同+0.8%から加速しました。

 

●日本の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.9%と、2四半期ぶりにプラス成長となりました。個人消費が5四半期ぶりのプラスとなりました。

 

●中国の7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.6%と、前期の同+4.7%から減速しました。引き続き需要不足により内需が停滞しました。

 

●豪州の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.0%と、前期から減速しました。物価高で個人消費が伸び悩み、前期比は+0.2%でした。

 

<見通し>

●米国は、これまでの利上げに伴う景気抑制効果に加え、コロナショック後のペントアップ需要の一巡、財政刺激効果の縮小などから、景気が緩やかに減速すると想定しています。個人消費が底堅いことや企業収益が好調なことから、景気の後退は避けられ、ソフトランディングに至るとみています。

 

●欧州は、生産の減少などから低成長が続くとみられます。インフレの鈍化による購買力の回復、EU復興基金などの財政支援などが景気を下支えするものの、ドイツを中心に製造業の低迷から景気は弱い動きが続くとみられます。

 

●日本では、インフレ圧力の継続により個人消費が力強さを欠くものの、賃金の上昇、経済対策(定額減税・給付金)、省力化やデジタル化などの設備投資の増加、堅調なインバウンド消費、底堅い米景気を背景に持ち直し、緩やかな成長軌道を辿る見通しです。

 

●中国は、不動産市場の低迷に加え、海外企業の投資減少や若年層の雇用悪化などから個人消費も力強さを欠き需要不足が続くことから、景気が徐々に減速するとみられます。ただし、金融緩和や政府の住宅対策、拡張財政により急激な減速は避けられる見通しです。

 

●豪州は、中国景気の減速やこれまでの利上げの累積効果、粘着質なインフレにより個人消費の回復が緩慢となるものの、拡張的な財政政策の下支えや先行きのインフレの鈍化により徐々に持ち直し、回復傾向を強めるとみられます。

 

米国の実質GDP成長率

 

中国の実質GDP成長率

 

次ページ3.金融政策

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