まだまだ余力の残る日本の不動産価値
東京では100年に一度といわれる大規模再開発が進行しています。2023年11月にビルとして日本一の高さを誇る麻布台ヒルズ・森JPタワーが完成しました。メインタワーの最上階(64階)のペントハウスは200億円超と日本一高額なマンションとして話題に上りましたが、決して一部の価格だけが上昇しているわけではありません。2023年には23区内の新築分譲マンションの平均価格は1億円を超え、東京の不動産市場は活況を呈しています。
大規模再開発プロジェクトについてはその他にも、日比谷公園周辺の超高層ビル群一体構想、リニア中央新幹線の始発駅として期待が高まる品川駅周辺などが複数進行しています。2026年には同駅西口の高輪エリアで大規模複合施設が整備され、隣接する高輪ゲートウェイ駅でも高層ビルの建設ラッシュが続きます。また、湾岸エリアではパレットタウンや東京五輪選手村など広大な施設跡地を利用した開発なども進んでいます。
こうした大規模再開発は周辺地区に影響を与えます。再開発による交通や公園、商業施設の整備などにより生活環境が改善され、周辺地区の不動産価格も上昇します。
しかしまだまだ水面下で進んでいるプロジェクトがいくつもあり、この先も東京の不動産価値は上がっていくと考えられます。さらに「点」で進行していると思われた不動産開発が高度な手法によって「線」で結ばれ、やがて大きな「面」となっていけば、再開発から外れた地域に関しても不動産の価値が高まり、東京全体の不動産市場はさらに拡大する可能性を秘めています。
一方、日本全体で見ると地方を中心に国内の不動産価値は低位で推移してしまっており、地域による開きも大きいままです。2024年の地価公示額の都道府県別ランキングを見ると、東京都、大阪府、京都府の上位3つがすべて地価平均30万円/㎡以上と高くなっています。これに対して下位ランキングに目を向けると、1位の秋田県が2万5,890円/㎡、2位の青森県が3万138円/㎡、3位の鳥取県が3万3,791円/㎡となっており、各都道府県によって地価に大きな開きがあることが分かります。
2024年の全国の地価動向では、全用途平均の地価は前年比2.3%上昇と、バブル期以来33年ぶりの高水準となりましたが、1990年代初頭の地価公示額と比較するとまだまだ足元にも及ばない状況にあります。
日本の不動産価値は2,956兆円
我が国の資産ストック量の推計は内閣府による「国民経済計算」が代表的な統計です。国際的な計算手法に準拠し、公共、企業、個人などそれぞれの経済活動をフローとストックで集計し毎年開示しています。国民経済計算によれば2021年末における我が国の全ストックのうち、金融資産は約9,000兆円で、有形固定資産などの非金融資産が約3,500兆円に達しています。国土交通省もこの国民経済計算を活用して有形固定資産のうちの不動産総額(2021年末時点)を集計しています。
ここからは2,956兆円の不動産を所有する日本国、企業、自治体そして日本政府の順にその資産ストックの状況や財政状況について経営的な視点で分析していきます。
対象となる法人や団体の経営状況はバランスシート(貸借対照表)を見れば分かりますのでこれを利用します。バランスシートとは特定の時点における企業の財務状況を示したもので、資産と負債と株主資本に大きく分けられます。これら3つの間には次の等式が成り立ち、
資産=負債+株主資本
図に示すと図表1のようになります。
バランスシートの左側に記される資産は、現金や売掛金などの流動資産と土地や建物、機械装置などの固定資産に分けられます。バランスシートの右側に記される負債とは銀行からの借入金や社債など返済義務のあるものです。
同じく右側の株主などによって払い込まれた資本金や資本剰余金など返済義務のないものが株主資本(純資産)です。つまりバランスシートには、右側の資本をどのように使ったのかが、左側の資産状況に示されているのです。国民経済計算のストックの記録はまさにこのバランスシートと同じ考え方で作成されています。
日本全体の不動産ストックの状況と課題
政府、自治体、企業に個人をあわせた日本国全体の資産に目を向けると、図表2に示した数字が記されています(2021年末時点)。
政府、自治体、企業に個人をあわせた国全体としては財政破綻を起こしているわけではなく、正味資産の大きさを考えれば決して悪くない状況です。長年の建設行為による建物やインフラなどのストックと長期的には上昇してきた土地のストックにより有形固定資産が蓄積されています。
国のバランスシートにおいて特色となっているのは右側の正味資産です。これは国民がさまざまな生産活動により長年積み上げた国富であり3,859兆円に達しています。企業でいえば資本金や長年の利益剰余金に相当する部分ですが、国民全体としてはGDPの蓄積や資産の増額分の累計です。長年国民が額に汗して働いた生産活動によって培われたストックが寄与していることが分かります。
非金融資産のなかでも不動産資産規模は、約2,960兆円です。このうちの590兆円程度が公的不動産、430兆円が法人所有不動産、残りは個人が持っているものと考えられます。
これらの不動産資産についても、償却年数による価値の減耗を考えると見え方が変わってきます。国民経済計算では資本の減価のうち解体やスクラップに伴う「除却」と資産の摩耗や老朽化に伴う「減耗」の両方が考慮されていますが、その減耗率については税法上の償却率を適用しさらに定率法を採用しています。定率法は一定のスピードで償却する定額法とは異なり加速して償却するため、かなり早い年数で大部分を償却してしまいます。
高度成長期や平成のバブル時代に多くの資産が建設されたことを考えると、建物などの不動産の価値はないも同然の計算方法となります。逆に言えば建物や施設の価値を適正に評価すれば有形固定資産はもっと増加する可能性があるのです。つまり2,956兆円よりももっと大きなストック量になるということです。
多くの不動産が実際には使用され価値を生んでいるわけですから、考え方次第で不動産資産を向上できる可能性があるのです。連載ではこの部分の大きさを重要視しています。
償却済みとされている建物がどれほど残っているのかを推定してみます。東京都の都心3区(千代田区・中央区・港区)のビルを対象として、データサイエンスの手法を用いて残存率を計算すると、次のような結果が得られています。
築35年ほどの建物……残存率95%
築45年ほどの建物……残存率90%
築60年以上の建物……残存率50%
ビルの計算上の償却年数は47年程度ですが、それを超えてもなお大多数の建物は残存し活用されているのが実態なのです。また、都心3区は比較的寿命が短いケースが想定されますので、地方や地域、公共施設や企業不動産などはさらに寿命が長くなると考えられます。つまり償却年数は全国的にもっと長めに想定するほうが、実態に適合する可能性があるのです。
もちろん重要なのは計算方法の変更ではなく、本当の国富の増加を獲得することです。築年数が経過していながら、今でも使い続けられている建物は貴重な財産ともいえます。これらを活用して新たな価値を生み出せば、そこから収益が得られます。つまりコストをほとんどかけずに、新たな収益化を実現できるのです。こうした不動産価値の再評価による価値創造が今全国で求められているのです。
板垣 敏正
プロパティデータバンク株式会社 代表取締役
早稲田大学大学院 客員教授
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