(画像はイメージです/PIXTA)

日本経済の活性化のカギとなる、不動産の有効活用。ここでは、「空間活用」「公共施設関連事業の民間開放」がもたらすメリットについて見ていきます。※本連載は、企業不動産や不動産経営の専門家である板谷敏正氏の著書『不動産トランスフォーメーション』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

不動産トランスフォーメーションの展開法

不動産トランスフォーメーションの展開法には、大きく分けて5つの方法があります。

 

①容積率の規制緩和を背景とした空間の活用

②コンセッションやPFI法を背景とした経営主体の変換

③ライフスタイルの多様化に対応した不動産ビジネスモデルの変革

④既存ストックの徹底活用

 

①~④の変革を支えるのが、⑤DXに代表されるデジタルの活用です。不動産自体の変革をおこしてこそ、本当のDXだといえます。

容積率の規制緩和による空間活用のトランスフォーメーション

空間の変革にはさまざまなケースが想定されます。AIやネットビジネスに対応した次世代型のデータセンターや物流センターの構築、環境と全面的に共生した建物や木造の活用など建築技術の進展とともにさまざまな新施設が現在も登場していますが、本連載では、国・自治体・民間企業が連携して取り組んでいる特に高層化を核とする巨大再開発にスコープすることとします。

 

空間活用のトランスフォーメーションは、ここ数年で一気に拡大しています。その理由は、大きく2つあります。

 

第1の理由は、条例などの変更による容積率の大幅な緩和です。その結果として、大規模な高層化が進められるようになりました。東京や大阪をはじめとする都市圏では、各地で高層ビルやタワーマンションの建設が相次いでいます。こうした動きを後押ししているのは、各自治体による高さ制限と容積率の緩和です。高さ制限と容積率は、自治体ごとに定められています。したがって都市計画審議会などの決議を受ければ、制限の撤廃や緩和を行えるのです。

 

第2の理由として、都市再生のために国レベルで設置されるようになった戦略特区が挙げられます。国際的な活動拠点を形成するための立地整備を図る国家戦略特区では、都市計画の決定や許認可がワンストップで行えるようになりました。この戦略特区でも容積率・都市計画ワンストップという項目が定められて、容積率が大幅に緩和されています。

 

これを活用しているのは、東京都と神奈川県です。東京都内には戦略特区が45カ所あります。

 

また、建築技術の進化により、構造的にかなり大胆なデザインの建物を造れるようになってきました。このところ増えている斬新なデザインを取り入れた多用途複合の超高層ビルを支えているのは、最新の建築技術です。

 

最新技術を駆使した革新的なビルデザインの海外の例として、宇宙船のようなアップルの新社屋「アップル・パーク」が知られています。円環状の建物の外装は、巨大な曲面ガラスで覆われたユニークなものです。総面積70ha、建物の床面積については一棟だけで26万㎡、高層ではなく4階建てですが円形建物のなかで1万2,000人の従業員が働いています。

 

IngusK / PIXTA(ピクスタ)
[写真1]アップル・パーク IngusK / PIXTA(ピクスタ)

 

一方、東京都の超高層ビルの特徴としては、内部施設の複合化が挙げられます。低層階にはショッピングモールが入り、その上にオフィスがつくられ、さらにその上にラグジュアリーホテルが設置される場合や、マンションができる場合もあります。

 

このような展開は、日本のなかでも特に東京の中心部のように土地が限られているエリアにおける貴重な資源への気づきによって引き起こされました。その資源とは「空中」です。土地については、面積に応じて土地代が必要となりますが、空間については土地代のようなコストは一切不要です。

 

kazukiatuko / PIXTA(ピクスタ)
[写真2]空中資源の活用 kazukiatuko / PIXTA(ピクスタ)

 

そこで空間をフル活用できるように規制が緩和され、同時に超高層ビルを安全に建設できる技術も進化してきました。その結果、空中という資源がどんどん活用されるようになってきました。こうした状況は行政サイドにとって一石二鳥です。規制を緩和するだけであまり税金を投入せず、民間資本により都心部の再開発を行って都市の競争力を高めると同時に、世界中からの投資まで呼び込めるようになるのです。

 

そして、空中資源の活用は民間企業にとっても、大きなメリットをもたらします。超高層化によりテナント数が増えれば、それだけテナント料による収入も増やせます。その結果、土地取得のための投資を早期回収できるようになります。

 

このように空中活用は、官民双方にとってWin-Winの不動産トランスフォーメーションとなります。このメリットに気づいているのはもちろん日本だけではなく、アジアではシンガポールで積極的に展開されているほか、ヨーロッパではすでに多くの大都市で取り組まれています。

コンセッションやPFIを活用する経営母体のトランスフォーメーション

経営母体のトランスフォーメーションとは官民連携で進められるものであり、早くから導入していたのがヨーロッパです。その結果、いまやイギリスやフランスでは、公共インフラをはじめとして公共施設に関する事業を民間に開放するのは、ごく当たり前の考え方として広く受け止められています。

 

官民連携の手法として採用されているのが、コンセッションやPFIです。公共施設などの建設や維持管理、運営に民間資本やその技術を活用して、よりよいサービスをより安価に提供します。これにより自治体は、従来なら公的機関によって賄われてきた、インフラを含む公共施設の整備にかかる費用を負担しなくてよくなります。

 

一例を紹介すると、フランスでは上下水道のサービスにコンセッションが採用されています。フランスの水道事業については、上水と下水に関する責任自体は地方公共団体が持つものの、その運営は公共と民間のいずれもが担えるようになっています。したがって各地方公共団体は、自ら上下水道事業を運営しても構わないし、民間事業者に委託しても構わないのです。その結果、現時点では同国の上下水道事業の約半分が、Veolia社やSuez社を代表とする民間企業に委託されています。

 

イギリスのイングランドとウェールズでは1989年以降、水道事業が完全に民営化されています。イギリスにおいても以前の水道事業は、各地方公共団体によって運営されていました。しかし、国内の経済状況の悪化により、EUへの加盟に伴って課せられた厳しい水質基準をクリアするための新たな設備投資が難しくなったのです。その結果、民営化の検討・導入が進められて現状に至っています(内閣府「フランス・英国の水道分野における官民連携制度と事例の最新動向について」)。

 

コンセッションやPFIが行われている事例は水道などの公共インフラに限られた話ではなく、アメリカの空港をヨーロッパの企業が運営している事例などもあります。

 

日本でもこれまで公共施設は、国や各自治体によって建設され管理も行われてきました。しかし、日本の自治体のバランスシートを見れば分かるように、現時点では資産の95%が不動産であり預金がほとんどありません。つまり新たに何かを建てたり、あるいは建て替えようとしたりすれば、借金をするしかないのが実状です。この借金とは、より正確に表現するなら将来世代にのしかかる負債となるわけです。

 

ところが、コンセッションやPFIを活用すれば、自治体には新たな負債は発生せずにインフラの維持やリニューアルが可能です。それどころか収益を得られるケースさえあるのです。管理主体のトランスフォーメーションは、将来世代に負債ではなく新たな資産を残すための、有効な手段となります。

 

次回記事では、③ライフスタイルの多様化に対応した不動産ビジネスモデルの変革、④既存ストックの徹底活用について見ていきます。

 

 

板垣 敏正
プロパティデータバンク株式会社 代表取締役
早稲田大学大学院 客員教授

 

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※本連載は、板谷敏正氏の著書『不動産トランスフォーメーション』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

不動産トランスフォーメーション

不動産トランスフォーメーション

板谷 敏正

幻冬舎メディアコンサルティング

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