不動産トランスフォーメーションの展開法
不動産トランスフォーメーションの展開法には、大きく分けて5つの方法があります。
①容積率の規制緩和を背景とした空間の活用
②コンセッションやPFI法を背景とした経営主体の変換
③ライフスタイルの多様化に対応した不動産ビジネスモデルの変革
④既存ストックの徹底活用
①~④の変革を支えるのが、⑤DXに代表されるデジタルの活用です。不動産自体の変革をおこしてこそ、本当のDXだといえます。
ここからは、前回記事に続き、③と④について見ていきます。
ワーク/ライフスタイルの多様化に対応する不動産ビジネスモデルの変革
官民連携による不動産トランスフォーメーションは、不動産に関するビジネスモデルの変革も引き起こしました。不動産といえば従来は、所有もしくは賃貸するものと決まっていました。これに対して不動産ビジネスの新たな形態、具体的にはシェアリングやサービス化が誕生しています。こうした流れを加速させているのが、ワークスタイルの変化であり、それに伴うライフスタイルの多様化です。
ワークスタイル変化の象徴ともいえるのが、テレワークの普及です。コロナ禍により導入せざるを得なくなったテレワークですが、実際にやってみると業務遂行上の問題などほとんどなく、むしろ従来のオフィスワークよりも効率の高まるケースも多々ありました。
その背景として、業務インフラとなる通信回線を含む情報通信技術が成熟レベルに達していたという状況があります。
さらにテレワークにある程度慣れてくると、働き方に関する意識に一種のパラダイムシフトが起こりました。決まった時間にオフィスに出向いて、決まった場所で仕事をするという従来の働き方に対して、日本でも海外発のフリーアドレス制が少しずつ導入されつつあるのです。北欧で誕生したとされているフリーアドレス制とは、作業内容に応じて最適な空間で仕事を進める働き方を意味します。
コロナ禍によるテレワークの普及は、このフリーアドレス制を日本中に広げたともいえます。要はいかに生産効率を高めるのかが問われるのであり、効率性向上と働く場所には関係がないと、誰もが理解するようになったのです。
当初は在宅しかなかった選択肢が、そのうちサテライトオフィスなどへと広がっていきました。在宅ではスペースに限りがあったり、あるいは子どもがいるために仕事に集中できなかったりする人もいます。そのような人たちのニーズに応える形で、駅前などにドロップインで使えるオフィススペースが提供され始めたのです。
背景となっているのが、20年ほど前にアメリカで生まれ、徐々に普及し始めてきていたシェアオフィスです。シェアオフィスとは、フリーランスやごく小規模な企業で仕事をする人たちのために提供される会員制のオフィスで、もともとはフリーランスや企業間のコミュニケーションを促進することが主な目的で開発された概念です。一つのオフィスを複数の企業や個人がシェアして使うので、ユーザーサイドではオフィス開設時に必要となる初期費用を大幅に削減できます。
シェアオフィス運営事業者の中に新たに、会員以外にもドロップインでスペースを提供するところが出てきました。このようなオフィススペース提供のサービス化は新たなビジネスであり、不動産の使用用途に関する新たなトランスフォーメーションとなります。
オフィスといえば以前は、自社でビルを建てて用意する、あるいはテナントとして賃借して入居するなど、選択肢が限られていました。こうした固定観念を打ち破る新たなサービスとして、シェアオフィスが提供されるようになり、さらにドロップインでの提供へと幅が広がっていったのです。
働く場所の多様化は、当然働く人の意識改革につながります。その延長線上として、オフィスを一切持たない企業も登場しています。
不動産ビジネスのサービス形態のトランスフォーメーションは、人々のワークスタイルに大きな影響を及ぼし、それは当然ライフスタイルの変化にもつながっています。
ストックの徹底活用に対応したリノベーションによるトランスフォーメーション
ストックの寿命に対する考え方の変革によって引き起こされるのが第4の不動産トランスフォーメーションです。築年数の経った不動産についての対応策は、従来なら基本的に取り壊して建て直すしかありませんでした。しかし不動産寿命に対する考え方の変化と、技術の進歩により大きな変革がもたらされているのです。その根底にあるのが、耐用年数の見直しです。
そもそもビルなどの構造躯体(くたい)については、財務省令に「耐用年数は150年である」と記されています。つまり建設物は基本的に、数十年~100年程度であれば、十分に実用に耐えると考えられているのです。
ところが、「公的機関が考える固定資産の耐用年数や償却率の整理」(石田航星)によると、国民経済計算においては、土地以外の償却資産に関する償却方法について定率法を採用しており年数を重ねるごとに加速して償却するために、相当早い年数で償却を終えてしまうと記載されています。その結果として、現役で利用されている建物の価値が最低レベルまで引き下げられているのです。
具体的には建設物について、築13年ぐらいで半分ほどが償却され、築44年では1割を切ってしまいます。この早すぎる償却が何を意味するのかといえば、高度成長期以降に建設された資産のほとんどについて、建物の現在価値を1割未満でしか評価していないということです。つまり実際にはまだ使える、あるいは現在も使っている建物について、その価値が認められていないのです。そもそも耐用年数という言葉は税務上の償却年数のための数字であり、税務上の数字を便宜的に国民経済計算や各種の不動産取引で利用しているのが実態です。その年数を超えた場合には利用することができないということではないので、実際の建て替えの判断の基準に活用してはいけない数字です。
価値をきちんと評価されていない建物が、日本には数多くあります。これらの建物の価値を改めて適正に評価すれば、日本の総資産は数百兆円規模で増える可能性があります。
国民経済計算は企業のバランスシートに相当します。再評価により資産が増えれば、それは利益になります。利益とは何らかの形で国民に還元できる価値、つまり「隠れた資産」なのです。これを有効活用すれば、将来世代に贈る貴重な財産となります。
ただし、財産化するためには、不動産に対する考え方を大きく変える必要があります。それは単に計算方法を定額法に変えるといった話ではありません。年数の経った建物をそのまま使うのではなくリノベーションして生まれ変わらせるのです。それもニーズの見込める用途に対応できるように変えることが必要になります。つまり、長寿命化に加えビジネスモデルの変更も加える必要があるのです。
例えば、古びてしまった小さなオフィスビルを新たなニーズに対応できる民泊などの小規模ホテルにリノベーションするとします。オフィスビルとしては借り手がつかなくとも、観光客を呼び込めるホテルであれば、借り手どころか買い手が出てくる可能性もあります。
あるいはすでに償却が終わっていて、それ自体にはまだ何の瑕疵(かし)もない公的な建物を民間活用に委ねるという方法もあります。小学校などの廃校活用がこれに相当します。いずれにしても現状をそのままではなく、リノベーションを加えて新たな価値を付加する、それも行政などが主体となるのではなく、民間が事業として運営することが重要になります。
既存ストックは長寿命化と適切なリノベーションを加えさえすれば、新たな価値を創出することができるのです。全国に多数の実績が生まれ、耐用年数を超えた建物には融資をしないとされていた金融機関の方針が転換すれば、さらに進展すると考えられます。
実は近年この4つ目の改革のニーズが大きく高まっています。それは建設費の高騰とCО2排出量に関するエンボディドカーボンという考え方が背景にあります。エンボディドカーボンとは、建物の建設、維持管理、解体を含む、建物の生涯を通じて排出されるすべての温室効果ガスの総和です。
人手不足や建設資材などの値上がりを背景に、建設費は近年大幅に上昇しています。この10年で20%以上、設備系については50%以上上昇したともいわれています。建設コストの高騰は、古い建物の撤去費も新築の費用も押し上げます。一連のトランスフォーメーションは不動産収益を基礎として計画されるものが多いので、採算性は大幅に悪化しています。
不動産の全面的な更新では、大量の廃棄物と温室効果ガスを排出します。欧米ではエンボディドカーボンの算定や情報開示が進展しつつあり、今後日本においてもこの考え方が導入される可能性があります。既存ストックの有効活用は、この面においても大規模な再開発と比較してたいへん有利ということになります。今後はより一層、既存ストック活用のニーズが高まることが予想されます。
板垣 敏正
プロパティデータバンク株式会社 代表取締役
早稲田大学大学院 客員教授
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