民間企業のストックと経営状況
前回に引き続き、2,956兆円の不動産を所有する日本国、企業、自治体そして日本政府の資産ストックの状況や財政状況について経営的な視点で分析していきます。
図表1に示すのは、大手企業トヨタ自動車のバランスシートです。日本を代表するメーカーであるだけに、バランスシートからはとても健全な経営状況が読み取れます。負債の総額は総資産の6割程度に抑えられていて、残りは資本として多くストックされています。
また固定資産は全体の2割程度に抑えられています。この有形固定資産の全資産に占める割合は筆者らの調査では10%から多くて40%くらいということが分かっています。また多くの企業はトヨタ自動車同様に有形固定資産だけでなく現預金を含む多くの流動資産を保有し、これを原資に新たな資産への投資や既存ストックへの再投資を実施することができます。
都道府県のバランスシートから見えてくる可能性
標準的な都道府県の例として静岡県を見ると、2021年度のバランスシートは図表2のようになっています。
まず目を引くのが全資産に占める固定資産の割合は95%で、その内実はほぼ不動産となっています。この静岡県の状況は、東京都を除く道府県財政の平均像と考えられます。
現預金などの流動資産はほとんどないに等しいので、将来のインフラや公共施設の更新や維持保全のための自主財源はほとんどないといえます。静岡県をはじめ多くの自治体は近年、総務省が提唱する「公共施設等総合管理計画」を策定し、予防保全や施設の統合縮小などを計画していますが、その財源に国からの補助や自主財源などを掲げています。しかしながらバランスシートを読み解く限りでは実現性は極めて低いと言わざるを得ません。
実は東京都では企業会計を早くから採用し、公共施設に関してもきちんと減価償却費を算定しています。また減価償却費相当分を基金として内部留保しています。これを公共施設への再投資に活用するのです。企業ならごく普通に行っている会計処理を、東京都は早くから導入していました。これにより、老朽化施設にはその資金を使って建て替えたり、長寿命化工事などを実施したりすることができます。
東京都以外では公共施設のほとんどが、地方債などの債務すなわち借金を活用してつくられています。これは受益者負担の観点からは間違いとはいえませんが、その負担をいつ、誰が背負っていくのかを考える必要があります。
多額の公共工事を地方債などの債務で賄っている場合、当然ながら次世代の負担が増えていきます。
2008年2月時点の数字で、社会資本形成の次世代負担比率の都道府県別比較を見ると、平均の負担率が57.2%となっています。この次世代負担比率とは、現在自治体が保有している有形固定資産額と負債総額を比較した数字です。簡単に言えばどれくらい借金が残っているかという数字です。
負担率を見ると、なかには100%を超えている自治体もあります。100%を超えているというのは、現在保有している固定資産よりも負債のほうが多いという状態です。
その結果として予想される未来像はあまり明るいとはいえません。そう遠くない将来に公共財政の圧迫、税負担の増加、社会福祉サービスの低下などが引き起こされかねません。それでなくとも人口減少と高齢化の進展により、次世代が負担できる余力は減り続けています。このような状況を放置して良いはずもなく、自治体財政の健全化は急務となっているのです。
日本政府のストックと赤字体質
政府の財政状態をより正確に把握するため、財務省は自治体同様にバランスシートを作成し公開するようになりました。2021(令和3)年度の「国の財務書類」(一般会計・特別会計/財務省資料)の概要をみると、次のように記されています。
資産:724兆円(流動資産531兆円・有形固定資産193兆円)
負債:1,411兆円
本来なら資産と負債のバランスが取れているはずですが、この時点で日本政府はすでに687兆円の債務超過となっています。
この背景には社会保障の増大があり、施設戦略の不具合が原因ではありませんが、長期的な財源不足であることは確実と思われます。中央政府においては貨幣の循環量を増大させるためには一時的に債務超過にするケースもありますが、その際には経済循環によって中期的には改善されるものです。
日本の国債は実際には中央銀行(日銀)が買い取っているため中央銀行との総計により打ち消されるため問題ないという考えもありますが、主要中央銀行の資産規模において日銀は突出しており、GDPに対する比率も120%を超えています。他国は20%から40%程度であることを勘案するとこれ以上拡大することは現実的ではありません。
また、長期的には徴税権を保有しているのでその権利を資産化計上すればつじつまが合うという考えもありますが、人口減少とともに税収も伸び悩むなかでは将来の徴税権だけでは説明がつかないと思います。経営を健全化できない状態が長期化すれば徴税権の信頼性すら低下する可能性もあります。
いずれにしてもこのような状況においては、資産の約25%に達する有形固定資産の更新や再投資については重要性の高いインフラや公共施設に集中せざるを得ません。さらには各自治体が公共施設等総合管理計画において期待している国庫の補助も十分には用意できないと考えられます。
日本経済の活性化は不動産にかかっている
日本の不動産価値を総合的に評価すれば、現時点で2,956兆円となります。ただしこの数字は、決して日本の不動産価値の限界を示すものではありません。そもそも、この数字には、減価償却が終わっているにもかかわらず実際には使われている、すなわち価値を提供し続けている建物の価値は計上されていないのです。こうした建物の価値を適正に評価すれば、不動産の価値はもっと増える可能性があります。
ほかにも、既存の不動産価値を高めるための手法が、近年いくつも新たに開発されています。例えば老朽化した狭隘(きょうあい)な街区を再生すれば、新たな不動産価値を創出できます。美術館や博物館、劇場やホールなど、現時点では運営にかかる人件費も含めて費用対効果のバランスが取れていない公共施設も、アイデア次第では新たに価値を創出できる資産に変換できます。不動産価値が高まるだけでなく、周辺に対する新たな経済効果も期待できます。
不動産は持ち運びのできる資産ではないため、輸出による経済活性化には貢献できません。しかし、外資を呼び込み新たな不動産活用を行えば、海外からの資金を日本に取り込めるのです。あるいは国家戦略特区のように都市の魅力を高めて、海外から人を呼び込めれば輸出と同じ効果を得られます。
低迷を続ける日本経済を活性化させるカギは、まさに不動産にかかっています。将来世代に財政面での禍根を残さないためのカギも不動産にあります。
アイデア次第では、新たな価値を生み出す手法はいくらでも考えられます。そのための貴重な資産である不動産を活用すれば、日本経済の立て直しは決して不可能ではありません。
そして実際に、不動産に関する大胆な取り組みや改革が進められています。これからの日本にとって、まさに起死回生の切り札となるのが「不動産」なのです。
板垣 敏正
プロパティデータバンク株式会社 代表取締役
早稲田大学大学院 客員教授
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