(画像はイメージです/PIXTA)

日本経済の活性化の足掛かりとして、不動産の有効活用がひとつの選択肢となるかもしれません。ここでは、新たな取り組みや改革について見ていきます。※本連載は、企業不動産や不動産経営の専門家である板谷敏正氏の著書『不動産トランスフォーメーション』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

不動産トランスフォーメーションとは何か

不動産を有効活用するため、新たな取り組みや改革、従来とは異なる方法でこれまでにない価値を創造することを、本連載では「不動産トランスフォーメーション」と表現しています。

 

価値創造の取り組みで「トランスフォーメーション」といえば、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を思い浮かべるかもしれませんが、不動産トランスフォーメーションが不動産管理のデジタル化を意味する新語というわけではありません。

 

そもそもトランスフォーメーションの元となる英語「transformation」が意味するのは「変化」「変形」「(遺伝における)形質転換」です。本連載でいう「不動産トランスフォーメーション」においても、トランスフォーメーションの意味は第一には「変化」であり、より正確には「形質転換」に近い意味を含んでいます。

 

考え方を変えて活用法を一新すれば、日本の不動産には多くの新たな価値を生み出す力が秘められています。その不動産トランスフォーメーションの担い手となるのは、公的機関だけにとどまりません。むしろこれからの主役として期待されるのは民間企業です。

 

自治体や日本政府は老朽化資産を大量に保有していますが、将来の資産の更新のための財源に限界があります。地方債や国債に頼った場合には次世代への負担がさらに増加してしまいます。これらの課題の解決には民間企業の経営手腕を活用した官民の連携が必要です。官庁は民間が動きやすくなるような下地づくりとしてさまざまな規制などを緩和し、民間が自由な発想やアイデアで不動産の新たな活用法を創出して、収益化を図るといった役割分担が必要となるのです。

 

また、担い手として期待される組織としては、従来の民間企業やデベロッパーなどに加え、市町村が指定する都市再生推進法人、まちづくり会社、一般社団法人や一般財団法人に加えNPO法人なども想定されます。

 

不動産トランスフォーメーションの本質は、こうして官民が一体となって、日本の将来世代のために、負担を減らしながら資産を育んでいくことだと考えています。

従来型のCRE戦略と不動産トランスフォーメーションの違い

不動産のとらえ方についての変遷を振り返ると、西暦2000年以降より企業におけるCRE戦略の重要性が盛んに指摘されています。CREとは、Corporate Real Estate、企業の不動産を意味します。つまりCRE戦略とは、企業不動産を資産効率と生産性の両面から向上させるための実践的な手法です。

 

CRE戦略は、特に日本企業において重視されていました。なぜなら、日本企業のCREの総量が多いためです。CREはバブル崩壊まで、比較的リスクの少ない投資対象と位置づけられてきました。経営に与えるインパクトについて本業への設備投資と不動産投資を比較した場合、不動産のほうが価値の変動が少なく影響も小さいと考えられてきたことで、企業は所有する不動産を増やしてきました。

 

こうした状況を一変させたのが、バブル崩壊です。1990年3月、大蔵省(当時)から全国の金融機関に発せられた「不動産融資総量規制」によって、それまで上昇し続けていた地価や住宅価格が大きく下落する事態となりました。その結果、不動産投資に関するリスクが、経営にとっての重要課題と認識されるようになりました。こうした時代の変化に伴って「持たない経営」が提唱されるようになり、不動産の売却が進められるようになったのです。

 

それでもなお現在、業種ごとに比較すると、欧米の同業種の企業よりも日本企業のほうが不動産を2~3倍多く所有しているのです。これは、同じような製品やサービスを提供する場合に、欧米よりも日本の企業のほうがより多くの不動産を用いていることを意味しています。つまり日本においては、適切な投資管理と不動産の有効活用が競争力強化のためには必須となります。

 

また企業における最大の固定資産はCREです。製造業で固定資産の数十%、交通やエネルギー、通信関連などのインフラ産業では固定資産の半分近くをCREが占めています。

 

したがってCREを適切にマネジメントできれば、不動産のスリム化や量の適正化により資産縮減につながり、資産効率向上に貢献します。またCREの売却による資金調達も可能で、その資金をより収益率の高い本業に投資することもできます。逆にCREを積極的に投資用不動産として活用することも可能です。

 

このようにCREの取得や売却、改変などを行えば、その結果はバランスシートに反映されます。過去に取得した不動産の売却が意味するのは、新たな資金調達であり、調達した資金はさまざまな資産に変換されていきます。あるいは資金を借入の返済に回せば、バランスシートがスリム化されます。総資産が減少すれば、ROA(Return On Assets、総資産利益率)向上につながるばかりか、有利子負担などの長期的なコスト削減にもつながります。

 

CRE戦略における重要な効果としては、CREの売却やスリム化などの改変による経営効率向上があります。ただし、売却や証券化は重要な経営手法ではありますが、不動産そのものを変革するものではありません。変化していないのですから、これは本書で定義するトランスフォーメーションではありません。

不動産証券化と不動産トランスフォーメーションの違い

不動産証券化については、REIT(Real Estate Investment Trust)、不動産ファンド、モーゲージ担保証券などの手法が導入されてきました。不動産証券化とは不動産を元にして証券を発行し、第三者がその不動産に備わる価値や収益に投資するシステムです。その結果として、不動産の流動性が高まり、数多くの投資を得られてリスク分散もできます。

 

REITとは不動産投資信託を意味していて、株式市場を通じて投資家から資金を集めて不動産に投資し、その収益を投資家に分配する仕組みです。

 

私募の不動産ファンドも基本的な仕組みはREITと同じですが、基本的にプライベートファンドであり、特定の投資家グループから資金を集めて運用します。ファンドは公開市場に上場することもなく、規制などもREITに比べれば緩やかです。

 

モーゲージ担保証券は、住宅ローンや不動産ローンなどのモーゲージ(住宅抵当)ローンのポートフォリオに基づいて発行される証券であり、モーゲージローンから得られる収益によって支えられています。いずれにしても画期的な資金調達手法ですが、不動産自体を変革するものではありませんでした。

 

例えば不動産投資に特化した企業、J-REITなどでは、2010年までほぼオフィス、商業店舗、住宅に投資を行ってきました。2010年からはECの進展に伴って物流施設への投資が始まり、商業施設への投資割合も増えています。

 

ただし不動産の証券化をいくら行ったとしても、対象となる不動産のあり方は何も変わっていません。証券化自体は画期的なアイデアであり世界中で多用されていますが、あくまでも不動産投資手法や資金調達の多様化です。これに対して、本書でいう不動産トランスフォーメーションとは「不動産」のあり方やビジネスモデルそのものを変革させる考え方であり、CRE戦略や証券化とは根本的に異なります。

 

不動産トランスフォーメーションの展開法には、大きく分けて5つの方法があります。

 

①容積率の規制緩和を背景とした空間の活用

②コンセッションやPFI法を背景とした経営主体の変換

③ライフスタイルの多様化に対応した不動産ビジネスモデルの変革

④既存ストックの徹底活用

 

これらの変革を支えるのが、⑤DXに代表されるデジタルの活用です。不動産自体の変革をおこしてこそ、本当のDXといえるのです。

 

いずれも土地・建物あるいは空間を基軸にビジネスやサービスを提供する不動産を舞台に、そのハードウェアとしての空間の改革と経営母体やビジネスモデルの変革の両面が伴うものです。つまり、空間の変革とビジネスの変革の掛け合わせと表現できます。多くの経営改革は組織や経営に関する変革ですが、不動産トランスフォーメーションは空間の変革が伴う点に特色があります。

 

 

板垣 敏正
プロパティデータバンク株式会社 代表取締役
早稲田大学大学院 客員教授

 

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※本連載は、板谷敏正氏の著書『不動産トランスフォーメーション』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

不動産トランスフォーメーション

不動産トランスフォーメーション

板谷 敏正

幻冬舎メディアコンサルティング

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