内憂外患のなか開催された中国「三中全会」…3つの観点から読み解く習政権の経済改革の行方

内憂外患のなか開催された中国「三中全会」…3つの観点から読み解く習政権の経済改革の行方
(写真はイメージです/PIXTA)

2024年7月15日から18日まで、中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(「三中全会」)が開催され、経済政策と改革の方向性が議論された。ニッセイ基礎研究所の三浦祐介氏が、習政権発足後の経済運営の大まかな推移も振り返りつつ、「市場と政府」、「安全と発展」、「成長と分配」の3つの観点から、今後の改革や政権運営の方向性を考察する。

3|成長と分配:成長一辺倒からの基調変化は不変

3つ目の観点は、成長と分配だ。これについては、今回の三中全会で目立った基調の変化はみられない。かつて人口ボーナスや対外開放の効果が経済の追い風となっていた時期には、高度経済成長が党による支配の正統性の源泉とされ、その際には故・鄧小平氏が提起した「先富論」の考えのもと、格差を容認しながら全体としての所得水準向上が目指されていた。それが、習政権が発足して以降、人口減少や対外経済摩擦といった内外の情勢変化を受けて成長率が低下するなか、「質」重視の発展へとシフトしてきた。その過程では、一時期盛んに強調された「共同富裕」のスローガンに代表されるように「公平性」が重視されるようになり、必然的に分配にも軸足を置いた政策の必要性が高まっている。

 

このため、今回のコミュニケでも、「包摂的民生、基本的民生、最低ライン保障型民生の建設強化」や「所得分配制度の改善」、「社会保障体系の整備」、「都市と農村の格差縮小」といった、格差縮小や福祉の向上にかかわるキーワードが挙げられている。

 

注目されるのは、これらの対策を実現するうえでの基盤的な制度ともいえる行財政制度の改革の行方だ。中国の行財政制度をめぐっては、中央・地方政府間での財源と行政のアンバランスな配分という深い問題がある。地方政府では、財源(歳入)の配分に比して行政(歳出)の配分が大きいため(図表5)、必然的に財政がひっ迫しやすいという問題だ。この構造が、不足する財源をファイナンスにより調達する動機となり、地方政府の隠れ債務問題という金融リスクの主因ともなっている。財政改革の方向性について「決定」では、地方政府の財源を強化するとともに中央政府の行政支出を拡大する等の対応を進める方針が示された。このほか、都市と農村を制度的に分断し、労働力移動の妨げや都市・農村格差の一因となっている中国特有の戸籍制度の改革も重要だ。

 

他方、成長に資する方策に関しても、重要な改革が目白押しだ。例えば、人口減少の影響緩和という観点では、定年の延長や子育て支援強化等の少子・高齢化対策、高齢者に適した雇用の創出などがコミュニケでは挙げられている。このほか、「消費拡大につながる長期的かつ効果的な仕組みの整備」や「現代的なインフラ建設の体制・メカニズムの整備」を通じた内需拡大、「現地の実情に応じて新質生産力を発展させる体制・仕組みの整備」による産業振興なども言及されている。

 

こうした改革の効果は無視できない。例えば定年延長に関しては、現行の定年(男性60歳、女性50歳)を男女とも65歳まで引き上げた場合、総人口ベースでは約2億人の労働力増となる計算だ(図表6)*2。ただ、改革の多くは、13年の三中全会において既に提起されている。その後10年かけて段階的に検討や対応が進められてきたが、依然として道半ばにあり、調整の難しさを物語っている。今後、中央・地方の行財政配分についてどのような着地点を見出すのか、定年延長がどのようなペースで進展するのか、産業振興が地方の重複投資を招いて過剰生産能力の問題が繰り返されないか、また、個人消費拡大に向けて実効性ある策が打ち出されるのか等、具体的な動きに注視が必要だ。

 

【図表5/図表6】
【図表5/図表6】

*2:もっとも、農村部の労働者には定年は影響しないほか、都市部でも一律に労働市場から退出するわけではないため、実際のインパクトはそこまで大きくないとみられる。例えば、都市・農村部の労働参加率の実績(2020年時点)を前提に、男性・女性の定年をそれぞれ65歳、60歳まで引き上げた場合の試算では、労働力供給の増加規模は3,600万人である(芦哲、占爍(2024)「如果延遅退休、怎様影響影就業市場?」金融界、https://m.jrj.com.cn/madapter/stock/2024/07/24091341756791.shtml)。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2024年7月30日に公開したレポートを転載したものです。

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