内憂外患のなか開催された中国「三中全会」…3つの観点から読み解く習政権の経済改革の行方

内憂外患のなか開催された中国「三中全会」…3つの観点から読み解く習政権の経済改革の行方
(写真はイメージです/PIXTA)

2024年7月15日から18日まで、中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議(「三中全会」)が開催され、経済政策と改革の方向性が議論された。ニッセイ基礎研究所の三浦祐介氏が、習政権発足後の経済運営の大まかな推移も振り返りつつ、「市場と政府」、「安全と発展」、「成長と分配」の3つの観点から、今後の改革や政権運営の方向性を考察する。

1|市場と政府:強調されなくなった市場の「決定的な」役割

今回のコミュニケで注目されるのは、市場の果たす役割について、その位置づけが以前よりも強調されなくなったことだ。13年に開催された三中全会で「改革の全面的な深化」が謳われた際は、コミュニケにおいて「資源配分において市場に決定的な役割を果たさせる」ことによる経済体制改革の深化が強調されたのに対して、今回のコミュニケでは「市場メカニズムの役割をよりよく発揮させる」とされたのみで「決定的な役割」については言及されなかった。むしろ、「『緩和の柔軟性』を保ちながら『管理の徹底』をはかり、しっかりと市場の秩序を維持して市場の失敗を補完」することが強調され、市場が管理の対象であると認識が透けて見える。

 

「決定」本文では「決定的な役割」との表現は踏襲されており、決定稿に関する議論の過程は定かではないものの、文言を完全に削除することに対しては党内で異論が出たのかもしれない。いずれにせよ、資源配分において市場メカニズムが役立つ部分を活用する考えは変わらないと考えられる一方、そのネガティブな側面にも強い問題意識を持ち、党による統治を乱さないよう、しっかりとコントロールしていく考えであることがうかがえる。

 

習総書記が13年の時点で市場化改革を進めるつもりが当初からなかったのか、その後に考えを改めていったのかは議論が分かれるところであり、実際にどうかは定かでないが、13年以降の市場化改革の取り組みを通じ、その弊害を認識した可能性はある。例えば、15年のチャイナショックの発生や17年から20年にかけての民営プラットフォーマーの台頭が挙げられる。市場化としては望ましいはずの為替変動幅拡大や民営経済の発展が、経済の安定や党による国の統治を脅かしたことを受け、純粋な市場化が自国の経済運営にとって必ずしも望ましいものではないと思うようになっても不思議ではないだろう。

 

類似の問題としては、国有企業と民営企業の関係が挙げられる。これについて、コミュニケ上では「揺るぐことなく公有制経済をうち固めて発展させ、揺るぐことなく非公有制経済の発展を奨励・支援・リード」するという、13年の三中全会と同じ表現が踏襲され、基本的な考え方に変化はみられなかった。「決定」の中身をもう少し具体的にみると、民営企業に関しては、「民営経済促進法の制定」などによる民間のビジネス環境改善や、「力のある民間企業が先頭に立って国の重要技術開発の任務を担うのを支援」すること等によるイノベーション強化への参画促進の方針が打ち出されている。

 

これまでも製造業振興に資する民営企業支援の姿勢は見られ、EVやドローンといった個別の製品領域では代表的なプレイヤーとなっている民営企業も少なくない。もっとも、20年に「資本の野放図な拡張」が問題視されて以降、プラットフォーマーに対する規制強化に代表されるように民営企業に対する風当たりは強くなっており、総じて以前に比べて民間の勢いが弱まっているというのが実情だろう。この傾向が変わらなければ、民営企業発のイノベーションは一定の「ガラスの天井」のもとでの発展にとどまる恐れがある。

 

【図表2】
【図表2】
 

他方、国有企業に関しては、「より強く、よりよく、より大きく」する方針は不変で、「国有企業による独自のイノベーション促進の制度的取り決めを整える」とされるなど、国有企業にもイノベーション促進への役割を期待していることがうかがえる。実際、最近では、国有企業を対象に、人工知能をはじめとする新領域でユニコーン企業育成を目指す動きもみられる。ただ、国有企業改革はこれまでも実施されてきたが、鉱工業企業のROAといった指標をみる限り、その生産性は必ずしも高まっていない(図表2)。仮に今後もその傾向が変わらないまま国有企業の役割だけが拡大すれば、経済全体としての生産性向上の妨げにもなりかねない。国有企業と民営企業をそれぞれどのように活用しながらイノベーション強化による生産性向上を実現していくのか、今後の実践に注目が必要だ。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2024年7月30日に公開したレポートを転載したものです。

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