父親の相続時には不要だった相続税の納付。父のときより預貯金が大きく減った母親の相続なら、相続税の納付はなおさら不要…。そう考えて気楽に構えていたある女性のもとに、税務署から「お尋ね」の封書が届き、パニックに。納付期限が迫るなか、対応に追われますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。
母親が亡くなって8ヵ月後、税務署から届いた封書
「母が亡くなったあとに預金を確認したところ、残高は400万円ぐらい。生命保険の死亡保険金も500万円程度でしたので、今回も相続税関連の手続き不要だと思い、放置していました」
ところが、母親が亡くなってから8ヵ月を過ぎたとき、税務署から「相続税の申告等についてのご案内」という封書が送られてきたのです。
父親のときと同様「なにもしなくていい」と思い込んでいた鈴木さんは驚き、慌てて相談先を探し、筆者のところに駆け込んできた…という経緯でした。
税務署からのご案内の通知…なぜ届く? どういう内容?
では、税務署からの「相続税の申告等についてのご案内」は、どのような理由で届き、どのような内容となっているのでしょうか。
◆相続発生後、6~8ヵ月頃に送られてくる
相続発生後、6~8ヵ月過ぎた頃に、税務署から封書で送られてきます。
封筒には「相続税の申告要否検討表」という用紙が入っており、これに必要事項を書いて税務署に返送します。
場合によっては「相続税の確定申告書」が入っていることもあります。ちなみに鈴木さんの場合は、「相続税の確定申告書」の用紙が入っていました。
◆相続税の申告を促す目的で送られて来る
税務署から送られる「相続税の申告等についてのご案内」は、亡くなった人の財産の内容を確認して、相続税の申告を促す目的があるとされています。
人が亡くなったときは市区町村役場に死亡届を提出しますので、この情報は税務署にも通知されます(相続税法58条)。
よって、税務署は、この情報をもとに、亡くなった人について過去の確定申告書や固定資産課税台帳、さらに保険会社から提出される保険金の支払調書などから財産がどれぐらいあるかを調べます。
その結果、亡くなった人の全員に通知を出すのではなく、一定以上の財産があると見込まれる場合に「ご案内」が送られます。
◆過去に確定申告をしていた場合、送られてくることが多い
一定の収入があり、毎年の確定申告をしているような場合は、税務署も不動産や金融資産などの財産の内容を把握していることから、相続税がかかる財産だと認識しています。
鈴木さんの父親は定年退職後、これまでのキャリアで身につけた技術を生かして自営業を営み、確定申告をしていました。仕事場は自宅の1階の一部分で、父親が亡くなったあとは類似の仕事を営む人に賃貸し、母親は家賃収入を得ていました。そのため、母親もずっと確定申告をしてきたのです。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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