ある男性は、母親が亡くなったことで相続手続きに着手しました。ところがそこで、20年前の父親の死から放置されていた、大変困った事態が判明し…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。
遺産分活協議書、作成していたのに!?
父親が亡くなったとき、司法書士のアドバイスのもと、遺産分割協議書を作成しました。自宅は、父親の名義の8割について母親と鈴木さんで等分とし、預金は母親が相続するという内容です。住宅ローンもすでに完済しており、負債はありませんでした。
「てっきり、母が司法書士に相続登記を依頼したと思っていたのですが…。葬儀のあと、固定資産税の通知書に父親の名前があるのを見て確認したところ、父親名義のままだと判明したのです」
古い書類で手続きは可能か?
父親の相続時の遺産分割協議書を見つけることができたといって、鈴木さんは打ち合わせに持参してくれていました。
「この遺産分割協議書、果たして使えるのでしょうか? 相続人の母親は亡くなってしまいましたが…。もし使えないなら、一体今回の相続をどうすればいいのでしょう?」
筆者と提携先の司法書士が確認したところ、遺産分割協議書のほか、父親の戸籍関係の書類、相続人の母親と鈴木さんの戸籍や印鑑証明書など関係書類が一式残っていました。おそらく、法務局に申請するつもりだったのでしょう。
しかし、これらをもとに相続登記するには問題があります。自宅の持ち分10分の4を相続する母親の本人確認が、もはや不可能だからです。近年では、相続登記するにも、本人の身分証明書や司法書士による意思確認(面前、電話等)が不可欠となっています。
数次相続とは?
今回の鈴木さんのケースのように、父親が亡くなり、その相続手続きが終わらないうちに二次相続が発生することを「数次相続」といいます。10年以内に相続が発生したときの場合を指し、相続税から控除できる特例もあります。
しかし鈴木さんの両親の場合、父親が亡くなってから20年経ったところで、母親が亡くなっています。本来なら手続きができる年数がありますので、一般的な数次相続とは異なるケースではありますが、一次相続の手続きができていないうちに二次相続が発生したという点は同じです。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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