日本企業の利益創出は“米国に負けず劣らず”だが…TOPIXとS&P500にある“決して埋まらない差”の正体【マクロストラテジストの見解】

日本企業の利益創出は“米国に負けず劣らず”だが…TOPIXとS&P500にある“決して埋まらない差”の正体【マクロストラテジストの見解】
(※写真はイメージです/PIXTA)

2023年3月末、東京証券取引所は上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営」を要請しました。それから1年あまりが経ち、一定の成果があったと評価する一方で、TOPIXとS&P500を比較すると、依然大きな差が開いているようです。その理由と日本企業の課題について、フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が解説します。

日米の配当性向は同程度だが、日本の純資産増が大きい

利益を生み出している企業が純資産を減らす方法は、配当か、自社株買いによってです。

 

まず、配当について確認をすると、[図表6]に示すとおり、TOPIX構成企業の配当性向(=1株配当/1株利益)は、S&P500構成企業とほとんど変わりません。

 

[図表6]日米株式の配当性向(実績値、水準、1株ベース)
[図表6]日米株式の配当性向(実績値、水準、1株ベース)

 

したがって、(別途、新株発行による資本拡充の影響はあるものの)TOPIX構成企業は、S&P500構成企業よりも、自社株買いが少ないことになります。

 

[図表7]は、日米株式指数構成企業のDOE(株主資本配当率=1株配当/1株純資産)をみたものです。すると、TOPIX構成企業のDOEは、S&P500構成企業の半分程度です。

 

[図表7]日米株式のDOE(株主資本配当率、実績値、水準、1株ベース)
[図表7]日米株式のDOE(株主資本配当率、実績値、水準、1株ベース)

 

本節以前の節でお見せした図からも同じような結論を導けるかもしれませんが、本節の図に即していえば、日米企業で配当性向(=配当/利益)はほぼ同じであるものの、株主資本配当率(=配当/純資産)は半分くらいであるということですから、配当の水準対比で、日本企業の純資産は、米国企業のそれに比べて2倍くらい多いことを示唆します。

 

これは決して「日本企業の純資産を半分にすべき」とはなりませんが、いずれにせよ、

 

1.過去10年において、TOPIX構成企業のROEがS&P500構成企業に比して伸びなかった背景は、「TOPIX構成企業が、相対的に多くの利益を内部留保としてバランスシートに残したため」であり、

 

2.配当性向の水準は日米でほぼ同水準であるため、TOPIX構成企業は、自社株買いを通じた株主還元が、S&P500構成企業に比して少なかった

 

となるでしょう。

 

[図表8]は、S&P500構成企業の純利益と純資産金額の前年からの変化額をみたものです。(やはり、新株発行の影響は捕捉できませんが)S&P500構成企業の場合、得た利益の、半分以下の水準を純資産としてバランスシートに残していることが確認できます。

 

[図表8]S&P500の純利益と純資産金額の変化(実績値、1株ベース)
[図表8]S&P500の純利益と純資産金額の変化(実績値、1株ベース)

 

そして、[図表9]は、TOPIX構成企業の純利益と純資産金額の前年からの変化額を追ったものです。TOPIX構成企業の場合、多くの年において、得た利益の、ほとんどすべてを純資産としてバランスシートに残していることが確認できます。

 

[図表9]TOPIXの純利益と純資産金額の変化(実績値、1株ベース)
[図表9]TOPIXの純利益と純資産金額の変化(実績値、1株ベース)

 

あくまで投資家の側に立ち、なおかつ、「日本企業に高いROEを求める」と仮定すれば、日本企業は、自社株買いを通じた株主還元が少ないことが(短期的な)課題といえるでしょう。

 

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重見 吉徳

フィデリティ・インスティテュート

首席研究員/マクロストラテジスト

 

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