日本企業の利益創出は“米国に負けず劣らず”だが…TOPIXとS&P500にある“決して埋まらない差”の正体【マクロストラテジストの見解】

日本企業の利益創出は“米国に負けず劣らず”だが…TOPIXとS&P500にある“決して埋まらない差”の正体【マクロストラテジストの見解】
(※写真はイメージです/PIXTA)

2023年3月末、東京証券取引所は上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営」を要請しました。それから1年あまりが経ち、一定の成果があったと評価する一方で、TOPIXとS&P500を比較すると、依然大きな差が開いているようです。その理由と日本企業の課題について、フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が解説します。

米国株はマージン、ROEともにTOPIX構成企業の2倍の水準

そのまま、今度は、米国株式をみましょう。[図表3]は、S&P500構成企業のROEなどを時系列で追ったものです。

 

[図表3]S&P500のROE、株主資本コスト、マージン(実績値、水準、1株ベース)
[図表3]S&P500のROE、株主資本コスト、マージン(実績値、水準、1株ベース)

 

すると、S&P500構成企業のマージンは12%程度まで上昇しており、ROEは20%弱まで上昇しています。現状の水準はいずれも、TOPIX構成企業の2倍程度です。

 

目を見張るのは、広義株主資本コストの低下(=PERの上昇)です。

 

[図表3]では、わかりづらいですが、2010年代の「ディスインフレ時代」(長期停滞論)とパンデミック後の金融緩和時代を通じ、広義株主資本コストは低下しています。

 

すなわち、S&P500構成企業の場合、「ROEの上昇」と「株主資本コストの低下」の両方が(同程度)作用して、PBR(=ROE÷株主資本コスト)は上昇しています。

 

過去3年でベース金利が大幅上昇していることを踏まえると、①S&P500構成企業の利益創出に対する投資家の確信度が高まった(=リスク・プレミアムの縮小)、あるいは/および、②S&P500構成企業の将来の利益成長率の上昇が投資家の間で織り込まれたということでしょう。

 

結果として、[図表4]に示すとおり、長期でみると、TOPIX構成企業のPBRは「ROEの上昇」が「株主資本コストの上昇」で相殺されて横ばい、他方の、S&P500構成企業のPBRは「ROEの上昇」と「株主資本コストの低下」のダブルで上昇となっています。

 

[図表4]日米株式のPBR(実績値、水準、1株ベース)
[図表4]日米株式のPBR(実績値、水準、1株ベース)

日本企業の利益創出は米国並みだが、「純資産」を多く残す

[図表5]は、2014年度から2023年度までの10年間における日米株式の主要な財務項目と市場評価項目をみたものです。2014年度からみる理由は、2013年度(アベノミクス1年目)の日本株式の数値は円安と景気回復の影響で大きく上昇しており、「景気回復後の実力の動きを比較したい」がためです。

 

[図表5]日米株式の主要財務項目および市場評価項目(2014~2023年度、実績値、変化率、1株ベース)
[図表5]日米株式の主要財務項目および市場評価項目(2014~2023年度、実績値、変化率、1株ベース)

 

すると、TOPIX構成企業の1株利益の伸びは、S&P500企業と同程度であることがわかります(→過去10年間でともに約2倍に増加)。アベノミクス1年目のあと、日本企業も米国企業に負けず劣らずの利益を創出しています。

 

他方で、純資産の伸びは日米で大きく異なることがわかります。TOPIX構成企業の純資産の伸びは、利益の伸びとほぼ同じになっています。結果として、過去10年において、TOPIX構成企業のROE(=利益/純資産)はほとんど伸びていません。

 

決して「米国のそれが正しい」というつもりはありませんが、投資家の立場から観察すれば、過去10年においてTOPIX構成企業のROEがS&P500構成企業に比して伸びなかった背景は、「TOPIX構成企業が、より多くの利益を内部留保としてバランスシートに残したため」といえるでしょう。

 

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