日本企業の利益創出は“米国に負けず劣らず”だが…TOPIXとS&P500にある“決して埋まらない差”の正体【マクロストラテジストの見解】

日本企業の利益創出は“米国に負けず劣らず”だが…TOPIXとS&P500にある“決して埋まらない差”の正体【マクロストラテジストの見解】
(※写真はイメージです/PIXTA)

2023年3月末、東京証券取引所は上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営」を要請しました。それから1年あまりが経ち、一定の成果があったと評価する一方で、TOPIXとS&P500を比較すると、依然大きな差が開いているようです。その理由と日本企業の課題について、フィデリティ・インスティテュート主席研究員でマクロストラテジストの重見吉徳氏が解説します。

「東証要請」から1年…ROE成長鈍いが、投資家の「期待値」は

東証は2023年3月末に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等」を要請しました。同要請から1年が経ちました。財務計数に的を絞って、現状を確認してみます。

 

[図表1]は、TOPIX構成企業に関する、昨年度(2023年度)と、それ以前の10年間(2013年度~2022年度)の主要な財務項目と市場評価項目を示したものです。

 

[図表1]TOPIXの主要財務項目および市場評価項目(実績値、変化率、1株ベース)
[図表1]TOPIXの主要財務項目および市場評価項目(実績値、変化率、1株ベース)

 

すると、昨年度は、売上やマージンが大幅に伸びています。企業による価格転嫁が進んだことがうかがえます。その一方で引き続き、純資産の積み上げも多く、結果として、ROEは鈍い改善にとどまっています。

 

ただし、マーケットの反応をみると、東証の同要請も投資家の期待を刺激したためか、PBRは大幅に上昇しました。他方で、「それ以前の10年間」は、「年率10%の利益増」や「昨年度を上回るROEの年率上昇」も、PBRはほどんど反応しませんでした。

 

PBR=ROE÷広義株主資本コストですから、「ROEの上昇」を「広義株主資本コスト(≒株主が企業に要求する収益率)の上昇」が相殺しました。

 

この間、金利はほぼ横ばいでしたので、広義株主資本コストの上昇は、リスク・プレミアムの上昇/利益成長期待の低下を反映したものと考えられます。

 

[図表2]は、TOPIX構成企業のROEなどを時系列で追ったものです。

 

[図表2]TOPIXのROE、株主資本コスト、マージン(実績値、水準、1株ベース)
[図表2]TOPIXのROE、株主資本コスト、マージン(実績値、水準、1株ベース)

 

すると、TOPIX構成企業のマージンは6%まで上昇しています。他方で、ROEは8%前後で横ばい推移です。すなわち、「ROEの3分解」(ROE=マージン×回転率×財務レバレッジ)で考えれば、日本企業の財務レバレッジが低下していることになります。

 

これは、[図表1]の「純資産の増加&ROEの横ばい」と整合性があります。

 

筆者も「日本企業のROEは上昇している」ということがあります。しかし、実際のところは「日本企業のROEは長期でみると、さほど改善していない」というべきでしょう。

 

注目すべきは市場の反応で、昨年度は、東証要請も影響してか、データが取れる02年度以降で初めて、ROEの上昇とともに、広義株主資本コストの低下と(有意な)金利上昇がみられ、すなわち、リスク・プレミアムが低下/期待利益成長率が上昇しました。

 

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