中国における過剰生産能力問題の過去・現在・未来…「電気自動車」の次は「空飛ぶクルマ」が貿易摩擦の火種に?

中国における過剰生産能力問題の過去・現在・未来…「電気自動車」の次は「空飛ぶクルマ」が貿易摩擦の火種に?
(写真はイメージです/PIXTA)

中国の過剰生産能力が、西側諸国を中心に再び国際問題となっている。欧米諸国は、電気自動車(EV)やEVに搭載されるリチウム電池、ソーラーパネルといったクリーンエネルギー関連の製品を引き合いに出し、政府による補助金によって価格が不当に引き下げられているとして、中国を非難している。これらの製品が中国国内で生産過剰となった結果、海外に安値で輸出され、他国の経済・産業にとって脅威となっているためだ。2024年5月から6月にかけては、米国とEUがEV等の対中輸入関税引き上げを決め、G7サミットにおいても中国の過剰生産能力への懸念が表明されるなど、摩擦は日増しに拡大しつつある。ニッセイ基礎研究所の三浦祐介氏が、過剰生産能力問題を中国政府がどのように捉えているのか、今後どのように展開するのかについて、過去の歴史も振り返りながら考察する。

1―過去:過剰生産能力問題は2回発生。国内問題のみならず国際問題としての性格も帯びるように

設備稼働率過去を振り返ると、中国で過剰生産が問題となった時期は、1990年以降、現在までの約30年の間で2回あった(図表1)。第1の局面は1990年代後半で、軽工業製品を中心に過剰感が強まった。第2の局面は2010年代前半で、この際には石炭や鉄鋼、セメントといった重工業製品で過剰感が強まった*1

 

【図表1】
【図表1】

 

当時、生産能力が過剰となり解消に向かったプロセスには、その時々の個別の事情もあるが、概ね共通するパターンがみられる。すなわち、党や中央政府による大方針などによってある製品の需要が急成長すると*2、各地方政府がその機会を逃すまいとして一斉に補助金支給等を通じた投資促進に乗り出し、生産能力が急拡大する。地方政府幹部が、業績評価を意識して経済や雇用の拡大などで短期的な成果をあげようとするためだ。その後、外的ショックによる需要減退等をきっかけに過剰感が強まると、市場での競争原理に加え、中央政府が介入するようになり、調整が進む。

 

中国に対するアンチ・ダンピングの件数過剰生産能力問題の影響は、局面を経るにつれて大きくなってきた。中国経済が着実に世界の経済、製造業におけるプレゼンスを高めてきたことで、当初は単に国内問題であったものが、国際問題としての性格も帯びるようになってきたのだ。実際、第2の局面で鉄鋼の過剰が顕著になった際には、安価な中国製の鉄鋼が国際市場になだれ込み、中国の鉄鋼等の製品に対するアンチダンピングの調査開始件数が増加するなど摩擦が激しくなった(図表2)

 

【図表2】
【図表2】

 

*1:このほか、1980年代と2000年代初頭に、それぞれ、家電産業、鉄鋼やセメント等の素材産業で部分的に過剰生産能力が問題になったとの指摘もある(鐘(2024)、羅(2024))。

*2:例えば、第1の局面では、1992年の南巡講話を受けた市場経済化の加速に伴い消費市場が急拡大した。第2の局面では、2008年の世界金融危機に対応するために実施された4兆元の景気対策により、インフラや不動産建設が盛んになり、鉄鋼やセメント等の資材需要が急増した。

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2024年6月17日に公開したレポートを転載したものです。

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