(写真はイメージです/PIXTA)

中国政府は、不動産不況で売れ残っている住宅を地方政府が買い取ることを許可した。このような状況を見越してか、地方政府では当該市以外の出身者が住宅を購入した場合、当該市の戸籍を付与するとした政策の導入が広がっている。ニッセイ基礎研究所の片山ゆき氏が解説する。

魅力ある都市ランキング(2023年)

 

中国の地方政府は人口減少、少子高齢化、財政状況の悪化といった問題を抱えつつ、長期化する不動産不況をどう乗り切るかといった課題にも直面している。中国政府は5月17日、地方政府が売れ残って在庫となっている住宅を買い取ることを許可し、在庫が多い都市では買い取った住宅を低所得者向けの住宅として活用することも許可した。しかし、肝心なのは買い取った地方政府が住宅在庫をどのように消化するのか、といった問題であろう。特に地方都市では住宅価格が下がる中で需要も縮小しており、最終的には地方政府間で買い取り手の争奪戦といった事態も考えられる。単に販売するだけでは最終的に大量の在庫を抱える可能性もある。

 

このような状況を見越してか、地方政府では当該市以外の出身者が住宅を購入した場合、当該市の“戸籍”を付与するとした政策の導入が広がっている。それは上海市、北京市、広州市、深圳市といった一線都市に次いで位置付けられる新一線都市(地方大都市)において顕著だ。今般、住宅購入による戸籍取得の許可を発表した江蘇省南京市、湖北省武漢市、浙江省杭州市、広東省佛山市は多くが新一線都市で、2023年の魅力ある都市ランキングにおいて上位に位置している(図表1)。地方政府としては住宅購入に戸籍取得を組み合わせることで、小規模都市などからの移住を促進し、住宅市場へのてこ入れと若年層を中心とした労働人口の取り込みを企図している点がうかがえる。

 

 

中国の“戸籍”制度は1958年以降1978年まで、都市への急速な人口流入を抑制し、社会の安定を確保するために厳しく実施されていた。この“戸籍”であるが日本と中国ではその概念が大きく異なる。日本の場合は人の出生から死亡に至るまでの親族関係を記録・証明するものであるが、中国ではその役割に加えて、当人の地域間移動を管理し、どのような社会サービスが受けられるかも峻別するものとなっている。戸籍制度は都市戸籍と農村戸籍に別れていたが、高度経済成長とともに農村部の労働力の需要が高まり、都市化の促進、格差是正などの観点から段階的に緩和されている。しかし、農村戸籍から引っ越し先の都市への戸籍への移転は各市で条件が設けられており、日本のように引っ越しによって住民票を移すといった感覚の手続きとは異なる。引っ越しはできたとしても戸籍の移転ができなければ、子どもの教育、更には医療といった社会保障制度においても制約を受けることになる。

 

上掲の4都市の1つである南京市は5月11日、通知を発出し、「南京市の市街地に適法かつ固定した住所を有する者(家屋の法律上の所有権を所得した者)は、当該家屋への移転のための戸籍を申請することができる」*1とした。その上で、その配偶者、未婚の子、父母(法定退職年齢以上またはすでに定年退職の手続きを経た者)は当該家屋へ移転のための戸籍の申請をすることができるとした。つまり、住宅購入によって本人のみならず、その家族の戸籍の移転も可能としたのである。それまで南京市の戸籍取得には大学卒以上の学歴、年齢、安定した就業の有無、南京市の社会保険への加入期間などといった条件があったが、住宅購入についてはそのような条件はなくなり、市外の出身者の戸籍取得のハードルが下がったと言えよう。

 

*1:南京市公安局「関于合法穏定住所落戸有関事項的通知」

 

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※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2024年6月3日に公開したレポートを転載したものです。

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