(※写真はイメージです/PIXTA)

困った人を見かけたら、思わず助けたくなるのが人情というもの。しかし、先々のことまで冷静に考えたとき、必ずしも「困った人が歓喜するほどの手厚いサポート」が、本当の意味で助けにならないケース、もっというなら、それ以上に困った状況を生み出しかねないケースもあります。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

最低賃金10%の引き上げで、労働者の20%が失業したら?

筆者は、弱者保護をすべて否定しているわけではありません。状況をよく見て、弱者のためになるか否かを慎重に検討すべきだ、といっているだけです。

 

たとえば、最低賃金を10%引き上げたら労働者の20%が失業するような場合には、引き上げるべきではありません。しかし、失業が労働者の1%だけなのであれば、最低賃金の引き上げに賛成です。その場合には、失業した人は公共投資で雇ってあげる、等の対策が必要かもしれませんが。

 

狭い家の家賃を規制した場合、家の貸し手が狭い家を建てなくなったとしても、現存する狭い家が取り壊されることはないでしょうから、短期的には貧しい借主のメリットになるはずです。長期的には狭い家が古くなって取り壊されて貧しい人が困るかもしれませんが、それまでに経済を成長させて貧しい人を減らせる見通しが立つならば、家賃の規制はよい政策だといえるでしょう。

 

女性の重労働を規制することで、多くの女性が失業してしまうならば問題ですが、企業の行動が変化すると期待されるなら、規制も選択肢でしょう。たとえば、重労働は男性に、軽労働は女性に割り振る企業が増えるならば、女性が失業する可能性は低いでしょう。たとえば労働力希少(労働力不足と呼ぶ人が多い)の状態ならば、企業は労働者の採用に苦労するでしょうから、女性を失業したままにしたりせず、さまざまな工夫をすると期待できそうですね。

失業した人、かわいそう!→失業手当を手厚くし過ぎると…

「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉があります。受験生が勉強するのはよいことですが、寝る時間を削って勉強したことで健康を害してしまっては元も子もありません。経済政策も同じです。

 

失業した人が可哀想だからといって、失業手当を増額しすぎると、「真面目に働くより、失業手当をもらう方がよい」と考える人が増えるかもしれません。そうなると、失業手当を受け取る人が増えるので、働いている人が支払う雇用保険の保険料が値上がりします。そうなると、「働いても手取り収入が少ししか無いので、働くのをやめよう」という人が増え、悪循環が生じるかもしれません。

 

働く人が減り、失業者が増えると、国全体としての生産活動が滞り、人々の生活水準が下がってしまうでしょう。そうなってしまえば、政府が失業手当を支払う余裕がなくなってしまうかもしれません。

もし「1日延命できる1億円の薬」が保険適用になったら…

貧しいがん患者は、高い治療薬が使えずに可哀想だから、高い治療薬も健康保険が使えるようにしよう、というのは温かい心から出る政策でしょう。しかし、末期がんの患者を1日延命するための薬が1億円だったらどうでしょうか。

 

1億円というのは日本人1人あたり1円ですから、1万人を100日延命させるために全国民が100万円の健康保険料を支払うことになります。そうなれば、人々の消費は激減し、景気は大不況になり、栄養失調で寿命が短くなる人が増えるかもしれません。

 

以上、温かい心と冷たい頭脳のバランスをどう考えるのか、難しい問題だということがご理解いただけたならば、筆者が冷たい人間だというご批判は遠慮していただきたいと思います(笑)。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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