「カスタマーハラスメント」が急増する背景
近年、ニュースなどでも取り上げられている「カスタマーハラスメント」略して「カスハラ」ですが、厚労省でも「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が作成されるなど、問題意識の高まりが見て取れます。
筆者はこれまでも多様な職種の顧問弁護士を担当しましたが、この問題は以前より、企業法務にはつきものだという印象です。とくにここ近年、統計上でも相談数の増加が顕著となっている理由として、SNSの発達と、それにともないSNSによる店舗等への誹謗中傷の書き込みの激増があると思われます。
企業法務においては「評判の悪い書き込みの相談」は昔から「あるある」ですが、近年は、過激な誹謗中傷でわざと炎上させ、投稿へのアクセス数を増やして広告収入を得るといった、いわゆる「炎上商法」も登場して拍車をかけているといえます。
ここでは、改めて法律の観点から、カスハラの定義の基本、カスハラの境界線について見ていきたいと思います。
相手を追い込むばかりか、写真や動画での晒上げまで…
現在、カスハラには法令による定義はありませんが、上述した厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と記載されています。
最近は、「カスハラ」「カスタマーハラスメント」という言葉が多用されていますが、筆者としては、クレーマーと似たものだとの認識です。
要は、事業者側になんらかの落ち度があったとしても、「過剰要求」をすることで会社担当者を必要以上に苦しめるのが、カスハラ・クレーマーなのではないかと思います。もともと「お客様は神様」などといった言葉が周知され、「客だから偉い!」とばかりに、従業員を過剰に苦しめるケースもありましたが、最近はさらに、動画や写真を撮影してSNSに晒し上げるようなケースも増え、大変な状況です。
さて、ニュースなどでは、典型的なクレーマーやカスハラについての報道が多いのですが、企業法務の現場で難しいのは、会社側にも落ち度がある一方で「顧客側の要求が正当なものか過剰なものか、判断に迷う」といったケースです。
クレームを受けた企業側も「落ち度ゼロ」とはいえない場合
数年前に建築会社で起きた事例をご紹介します。
弁護士に寄せられた相談の概要は、戸建ての新築工事と、庭・壁等の外構工事の建築を請け負ったものの、最後の外構工事でトラブルになってしまった、というものでした。
筆者がくわしく話を聞いたところ、
①担当者の段取りが悪く、工事期間が1週間ほど遅れてしまった
②いくつか修繕対応が必要な箇所も生じた
という経緯がありました。
しかし、修繕が必要な工事はすべて修繕済み(②)であり、引越し時期には影響がなかった(①)といいます。他方、顧客側からは、それとは別に、
③駐車場のタイルの仕上がりが悪く、とてもこれにはお金が払えない
との理由で、
④最後、外構工事の代金として支払う予定の298万円は一切支払わない
と要求されました。
また、要求とは別に、担当者がネチネチといびられた結果「うつ病」との診断を受け、休職するところまで追い込まれてしまいました。会社内部だけでは対応しきれないと判断して、弁護士への相談に至ったのです。
筆者は会社側から相談を受けた立場ではありましたが、工期がスケジュール通りに進んでおらず、また、いくつか修繕箇所もあったということから、「顧客側の不信感が募っているのも、致し方ない部分もあるのかな…」という印象はありました。