企業を追い込む「カスハラ」「ハードクレーマー」だが…企業側の落ち度も「それなりにあるケース」での〈着地点〉の探し方【弁護士が解説】

企業を追い込む「カスハラ」「ハードクレーマー」だが…企業側の落ち度も「それなりにあるケース」での〈着地点〉の探し方【弁護士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

カスタマーハラスメントやハードなクレーマーの問題は、いまに始まったことではありませんが、SNS等の普及により、世間へ拡散・周知されるスピードは格段に上がったといえます。そのため、多くの企業も少なからぬ時間やエネルギーを「ハラスメント対策」に割いている状況です。しかし、企業側の落ち度がゼロといえないケースもあり、その場合の落としどころは非常に悩ましい問題となります。多くの企業の顧問を務める、山村弁護士事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

「カスタマーハラスメント」が急増する背景

近年、ニュースなどでも取り上げられている「カスタマーハラスメント」略して「カスハラ」ですが、厚労省でも「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が作成されるなど、問題意識の高まりが見て取れます。

 

筆者はこれまでも多様な職種の顧問弁護士を担当しましたが、この問題は以前より、企業法務にはつきものだという印象です。とくにここ近年、統計上でも相談数の増加が顕著となっている理由として、SNSの発達と、それにともないSNSによる店舗等への誹謗中傷の書き込みの激増があると思われます。

 

企業法務においては「評判の悪い書き込みの相談」は昔から「あるある」ですが、近年は、過激な誹謗中傷でわざと炎上させ、投稿へのアクセス数を増やして広告収入を得るといった、いわゆる「炎上商法」も登場して拍車をかけているといえます。

 

ここでは、改めて法律の観点から、カスハラの定義の基本、カスハラの境界線について見ていきたいと思います。

相手を追い込むばかりか、写真や動画での晒上げまで…

現在、カスハラには法令による定義はありませんが、上述した厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」では、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と記載されています。

 

最近は、「カスハラ」「カスタマーハラスメント」という言葉が多用されていますが、筆者としては、クレーマーと似たものだとの認識です。

 

要は、事業者側になんらかの落ち度があったとしても、「過剰要求」をすることで会社担当者を必要以上に苦しめるのが、カスハラ・クレーマーなのではないかと思います。もともと「お客様は神様」などといった言葉が周知され、「客だから偉い!」とばかりに、従業員を過剰に苦しめるケースもありましたが、最近はさらに、動画や写真を撮影してSNSに晒し上げるようなケースも増え、大変な状況です。

 

さて、ニュースなどでは、典型的なクレーマーやカスハラについての報道が多いのですが、企業法務の現場で難しいのは、会社側にも落ち度がある一方で「顧客側の要求が正当なものか過剰なものか、判断に迷う」といったケースです。

クレームを受けた企業側も「落ち度ゼロ」とはいえない場合

数年前に建築会社で起きた事例をご紹介します。

 

弁護士に寄せられた相談の概要は、戸建ての新築工事と、庭・壁等の外構工事の建築を請け負ったものの、最後の外構工事でトラブルになってしまった、というものでした。

 

筆者がくわしく話を聞いたところ、

 

①担当者の段取りが悪く、工事期間が1週間ほど遅れてしまった

②いくつか修繕対応が必要な箇所も生じた

 

という経緯がありました。

 

しかし、修繕が必要な工事はすべて修繕済み(②)であり、引越し時期には影響がなかった(①)といいます。他方、顧客側からは、それとは別に、

 

③駐車場のタイルの仕上がりが悪く、とてもこれにはお金が払えない

 

との理由で、

 

④最後、外構工事の代金として支払う予定の298万円は一切支払わない

 

と要求されました。

 

また、要求とは別に、担当者がネチネチといびられた結果「うつ病」との診断を受け、休職するところまで追い込まれてしまいました。会社内部だけでは対応しきれないと判断して、弁護士への相談に至ったのです。

 

筆者は会社側から相談を受けた立場ではありましたが、工期がスケジュール通りに進んでおらず、また、いくつか修繕箇所もあったということから、「顧客側の不信感が募っているのも、致し方ない部分もあるのかな…」という印象はありました。

次ページとはいえ、担当者が鬱になるまで追い込むのは…

※本連載は、山村法律事務所・代表弁護士の山村暢彦氏による書き下ろしです。

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