何気ない注意書きに見る、企業側の「入念なカスハラ対策」
最近、レストランや飲食店で「メニュー写真はイメージであり、実際に提供されるお料理とは異なる場合がございます」、ネット販売等で「天候や運送会社の都合にて、ご希望のお届け日にお届けできない場合があります」といった注意書きを見かけることが増えています。
これは、近年、ニュースなどでも取り上げられている「カスハラ」、つまり、カスタマーハラスメント防止の取り組みの一環なのです。
ここでは、実際にあったケースを紹介したいと思います。
ケース①「実物と違う!」飲食店でクレーマーが大騒ぎ
「思っていたのと違う」「写真ほど豪華じゃない」…飲食店等で、そんな「がっかり体験」がをしたことがある人は多いかもしれません。しかし、そこで過剰な対応をしてしまうのが、クレーマー事例、カスハラ事例だといえます。
「メニュー写真と、実際の料理のトッピングや野菜の分量が明らかに異なっており、店員にその旨アンケート用紙に書きたいと伝えたが、店員が来るのが遅かった」
以前、これだけで弁護士が介入するほどの事案になった例がありました。
このケースでは「謝罪金をよこせ」といった金品等の要求の類ではなかったのですが、店長クラスではとどまらず、企業の代表者、社長を謝罪によこせとの要求があり、かつ、たびたび店舗に現れてはクレームを言い続けるという、常軌を逸した執拗さがありました。
厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」にある「継続的な執拗な言動」「拘束的な行動」にも該当し、カスハラ・クレーマーと考えてよいという例でした。
なかでも厄介だったのが、店側が不当な対応をしていないにもかかわらず、たびたび出店しているビル側にクレームを言いに行くという行動でした。これは明らかに不当な要求であり、店舗としても、弁護士のサポートのもと正当な対応をしていたのですが、ビルのオーナーである企業は「これほどクレームが来るのは、店側の対応がよほど悪いのではないか」と疑いはじめ、店は、クレーマーとビルオーナー企業との間に挟まれ、非常に困った事態に陥りました。
結局、弁護士が介入し、説明・説得を繰り返しても、クレームが収まらないことを伝え、ビルオーナー側も「いくら正当な対応をしても要求がおさまらない」という店舗側の言い分に理解を示してくれるようになりました。
本件は、通常の程度を大きく超えた時間的拘束、店舗での不当な言動が繰り返されていたことから、最終的に、弁護士から「これ以上店舗でのクレーム行為が続くようなら、威力業務妨害等の刑事告訴等の手段を取る可能性がある」「店舗に生じた損害を賠償するように民事訴訟も提起する」といった、プレッシャーを与える通知を送りました。
クレーマーは、自身の住所氏名がバレていないと考え、非常に強烈かつ執拗なクレームを繰り返していたのですが、弁護士側は、やり取りしていた電話番号から相手方の住所等を特定し、先方にこのような反撃の書面を送ることができました。
当時案件を対応した私の気持ちとしては、やっと事態が収まったという安堵の気持ちと、どうして1,000円前後の飲食メニューに、人がここまで激怒することができるのか、未だに理解しがたいものがある事件でした。
ケース②「記念日に間に合わなかったから」執拗な返金要求
ネットショッピング関係で多いのが「希望通りの日程までに商品が届かなかったから、返金してほしい」といった、配送日に関するトラブルです。
実際に私が担当した事件でも、「彼女の記念日のために買った商品が、記念日までに届かなかったので返金してほしい」という要望でした。
そもそも、配送日などはお約束できない旨、ホームページや配送ポリシー等にも記載しており、「それだけ大事な記念日なら、早く買っておけばいいじゃないか」と思うのが一般的な感覚ではないでしょうか。
このケースに関しては、半ば言いがかりといいましょうか、わかってやっているのではないかと思われたのが、謝罪より、とにかく「返金」を要求してきたことです。
カスタマーセンターの従業員や会社側が長時間拘束されたことで「これ以上対応しきれない」と弁護士側に要請が入りました。対応の結果、弁護士側にジャンジャン電話をかけてきて、弁護士が「話が堂々巡りしており、これ以上話すことはない」といって電話を切ると、今度は会社側に電話をかける…という、関係者一同が「これぞカスハラ…」と舌を巻く、まさに王道ともいえる「カスハラ行動」だったのでした。
本来なら、ここまでの対応であれば着信拒否を行い、①のケースと同様、威力業務妨害等に該当するよう警告を送るのが順当な対応方法だったのですが、問題になっている商品自体が1,000円前後と非常に低額で、返金処理すれば落ち着くという判断から、企業側も「損切り」するつもりで返金処理し、終結させました。
「少額だし、返金して謝罪すれば…」と思われるかもしれませんが、もしSNS等で、「あの店は文句をいえば返金してもらえる」などといった書き込みが出回れば、大変な問題に発展しかねません。
個々の対応が重要になるのは当然ではありますが、企業側も、クレーマーやカスハラ対応に費用や時間をかけるわけにはいきません。これらはビジネスにまつわる、非常に頭の痛い問題だと思われます。
(※守秘義務の関係上、実際の事例から変更している部分があります。)
山村 暢彦
山村法律事務所 代表弁護士
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