法的三段論法とは?
最初にお話したことに戻りますが、この事件では、住所がどこなのかというシンプルな争点をめぐって、住所概念、つまり法解釈としての「住所」はどのような要素で判定すべきか、ということが問題になり、それが各裁判所における判断要素(「判断枠組み」ともいいます)の違いを生み、それが異なる結果を導いた、ということができます。
前著では、「法律に強くなるためには、法的三段論法が大事ですよ」ということを、繰り返し説明しました。ここで、もう一度確認しましょう。
法的三段論法というのは、①大前提として、法律の解釈を行い法規範を定立する(法解釈)、それから、②小前提として、事実の認定を行う(事実認定)、そして、③認定された事実(小前提)、これに解釈された法規範(大前提)をあてはめることで結論を導く、こういう三段階の考え方です。
法解釈に違いが出た「住所」の捉え方
なお、前著では次頁のように説明をした「法的三段論法」の図を使いました【図表1】。しかし、わかりやすい表現を使おうと考えた結果、かえって、本来の「あてはめ」の作業は、③の結論を導くプロセスにあるという点がわかりにくくなっている可能性を、前著刊行後のセミナーや講演を通じて感じてきました。
前著では、①法解釈、②事実認定のそれぞれの説明のなかで、わかりやすくしようと考えて、あえて「あてはめて」という言葉を使ったのですが、かえってこのことが本来の「あてはめ」との混乱を招く説明になってきたようにも思います。
【図表1】 法的三段論法(前著 図15)
そこで、本来の「あてはめ」を理解してもらうために、本書では①法解釈、②事実認定の内容については、あてはめという言葉は使わずに、次のように説明することにします。
【図表1´】 法的三段論法
さて、話を元に戻します。本書では、個別の判例を読むときに、どのような観点からみるべきなのかをお話します。
法的三段論法の観点からいうと、本件は小前提である事実の認定については、基本的に地裁、高裁、最高裁、ともに大きな違いはありません。どこで違いが出たかというと、大前提としての、法解釈の部分なのですが、それが先ほどお話した住所の捉え方、判断の方法(判断のしかた)、というところに違いがでてきた、ということになります。