今回は、武富士事件の最高裁判決を題材に、「法解釈と立法論」の違いについて見ていきましょう。※本連載では、青山学院大学法学部教授・木山泰嗣氏の著書『税務判例が読めるようになる―リーガルマインド基礎講座・実践編』(大蔵財務協会)の中から一部を抜粋し、近年の重要判例をもとに、法的三段論法をふまえた「税務判例の読み方」を解説します。

「民法」という他の法律の概念を借用した解釈

最高裁の判決でもう1つポイントとなっているところは、借用概念についての言及がある部分です。

 

武富士事件上告審判決(最高裁平成23年2月18日第二小法廷判決・集民236号71頁)

…このことは、法が民法上の概念である「住所」を用いて課税要件を定めているため、本件の争点が上記「住所」概念の解釈適用の問題となることから導かれる帰結であるといわざるを得ず、他方、贈与税回避を可能にする状況を整えるためにあえて国外に長期の滞在をするという行為が課税実務上想定されていなかった事態であり、このような方法による贈与税回避を容認することが適当でないというのであれば、法の解釈では限界があるので、そのような事態に対応できるような立法によって対処すべきものである。そして、この点については、現に平成12年法律第13号によって所要の立法的措置が講じられているところである。

 

この判示をみると、「法が民法上の概念である「住所」を用いて課税要件を定めているため、本件の争点が上記「住所」概念の解釈適用の問題となる」という指摘があります(最初の下線部分)。借用概念という言葉そのものは用いられていませんが、「民法上の概念である「住所」」という記載は、意味としては「借用概念」のことを指していると読み取るのが自然です。税法ではない「民法」という他の法律の概念を借用して、相続税法が課税要件を定めていますよね、という指摘だからです。

 

最高裁判決の上記判示には、「このような方法による贈与税回避を容認することが適当でないというのであれば、法の解釈では限界があるので、そのような事態に対応できるような立法によって対処すべきものである。」という部分もあります(2つめの下線部分)。これも前著で触れた法解釈と立法論の違い(法解釈の限界)を指摘している部分で、重要です。

 

【図表 法解釈の限界】

解釈論ではなく、立法の問題として対応すべき事案

ここで最高裁判決は、法律の解釈というのは、あくまで法律が定めている文言との関係から読み取れる範囲内でなければなければできない、といっているのです。

 

結論が、法律の解釈では不当である(租税回避はけしからん、許せない)というのであれば、限界を超えるような解釈論によって強引な対応をするのではなく、あくまで租税法律主義がありますから、法律を作るなり、法律を改正するなりして立法の問題(法律の規定の問題)として対応しなければいけませんよ、そのような問題についてまで司法(裁判所)が解釈論(法解釈)という手法で踏み込むことはできませんよ、ということをいっているのです。

 

前著では、法解釈の問題と立法論の問題は異なる、という説明をしました。その具体例が、ここには出ていることになります。

税務判例が読めるようになる― リーガルマインド基礎講座・実践編

税務判例が読めるようになる― リーガルマインド基礎講座・実践編

木山 泰嗣

大蔵財務協会

裁判所の判断は、なぜ分かれたのか? 近年の重要判例である、14の事件を素材に、法的三段論法をふまえた「判決の読み方」を講義。苦手な判例の「読み方」が、自然と身につく1冊です。

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