自由に出入りしていた妹3人に、買い取りの話をしてみたら
山田さんは、夫の実家不動産に思うところがある一方で、夫が言い残した「本家を頼んだぞ」という言葉が忘れられないといいます。
「息子たちに〈あの家を相続してもらえないか〉と聞いたところ、長男も二男も声をそろえて〈イヤだよ〉と…」
税理士は山田さんに、自宅から遠く、山田さんや息子さんたちが行く機会もほとんどないこと、そして、将来暮らす可能性もないことを確認したうえで、今後の維持管理費や固定資産税について説明し、息子さんやお孫さんの負担にしかならないとアドバイスしました。
筆者からも、活用できない不動産は、メンテナンス費用や固定資産税がかかるだけの「お荷物」になってしまうため、速やかに手放すことがおすすめだとお話ししました。
とはいえ、この家には夫の妹やいとこ、その子どもたちが集まる拠点となっていることから、地元在住の親族に、まずは売却を打診することになりました。
お金がかかるだけの「負動産」売却を決意
数週間後、山田さんから連絡がありました。
「先生、長野の実家は売却することに決めました。長男が対応してくれて、不動産会社と話が進んでいます」
山田さんは、夫の3人の妹たちに売却を打診したところ、全員がそっぽを向いたそうです。
「私が事情を説明して〈買ってもらえないかしら?〉と話したら、全員が〈お金がかかるからイヤよ〉っていうんです…」
山田さんはうんざりした様子で続けました。
「維持管理の費用や水道光熱費は全部夫の負担で、集まるときの準備や片づけは全部私の負担。夫がいないときも好き勝手に出入りして散らかしても〈どうせお義姉さんが片付けるから〉って知らん顔。そりゃあ、そんな役割、引き継ぐのは嫌ですよね」
「いちばん上の義妹は、仏壇のなかのお位牌だけ持ち出して〈お仏壇の後始末も、ついでにお願い〉ですって…」
お優しい山田さんは、愛するご主人のためにずっと我慢されてきたのでしょう。驚きのエピソードでしたが、筆者は正直ほっとしました。住むこともできず、利益を生み出すこともない不動産は、自分はもちろん、子どもたちの負担にならないよう、速やかに処分したほうがいいからです。
先代から土地を相続した方は思い入れもあり、自分の代で土地を手放すわけにはいかないという思いが強く、その土地に住んだり活用していなくても、固定資産税や維持費を負担し続けている方もあります。しかし、それではほかからの収入を充てているにすぎず、プラス財産とはいえません。
不要な不動産を処分して身軽になり、売却代金と支払う予定だった納税資金を別のことに活用したほうが、ずっと建設的ではないでしょうか。
過疎が進む亡夫の故郷で、すぐに買い手が見つかったのは幸運でした。山田さんには、これを機会に身軽になって、これからの人生を楽しんでいただきたいと思います。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。