(※写真はイメージです/PIXTA)

土地持ちの夫を亡くした高齢女性は、夫の遺産で優雅なひとり暮らしをしています。しかし、相続した賃貸アパートは赤字、敷地200坪の5LDKの大邸宅は高額な維持費がかかります。娘2人は母の状況を心配しますが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。

母親の賃貸事業を改善したい

今回の相談者は、40代の田中さん姉妹の2人です。70代の母親が保有する賃貸物件の収益が下がっていることを心配し、筆者のもとを訪れました。

 

「10年前に亡くなった父は、祖父から土地を相続しています。その後は相続対策として借入を行い、2棟の賃貸アパートを建築しました。ほかにも、地元の商店に土地を貸していて、母はそれらの収入で悠々自適の生活していたのですが…」

 

しかし、賃貸アパートは築古になって空室が目立つほか、リフォーム代もかかり、収支はマイナスだといいます。放置するのが不安なため、どうにかしたいということでした。

アパートも自宅も「マイナス資産」状態で…

筆者と提携先の税理士は、持参してもらった資料を確認しました。

 

すると、2棟の賃貸アパートには借入が残っており、毎月の返済もギリギリ。固定資産税や修繕費・管理費などを引くとマイナスです。商店に貸している土地の収益でなんとか補填できているといった厳しい状況でした。

 

大きな問題となっているのは、田中さんの母親の自宅です。200坪の敷地に建築された5LDKの大邸宅で、母親はそこにひとりで暮らしているのです。

 

200万円超の毎年の固定資産税はもちろんのこと、築40年という築古で、数年前に屋根と外壁を修繕したほか、広い庭は毎年2回、業者による剪定などの手入れが行われ、夏になると月に2回、業者が芝刈りに訪れます。

 

 

広い自宅でいまの暮らしを続けるなら、今後もこうした出費が発生し続けることになります。

 

「屋根と外壁を修繕すると聞いたとき、さすがに呆れて〈こんなにお金がかかる家は手放して、ひとり用のマンションに引っ越したら?〉といったのですが…」

 

母親は、まったく真剣に考えていないようです。

 

「私がどんなに話しても、まったく真剣に取り合ってくれないんですよ。〈この家には、お父さんがいてくれる気がするの〉〈お父さんが好きだったクッキー、焼けたわよ。お茶にしましょ?〉などと、いつも話が明後日の方向に行ってしまい…」

 

「確かに、子どものころから話を真剣に聞いてくれなかったよね、お母さん」

 

田中さん姉妹は口々にいうと、うんざりした表情を浮かべました。

 

現状のような不動産の持ち方をしていては、税金や各種費用が吸い上げられるだけです。これでは資産ではなく、単なる「金食い虫」です。

税金・修繕費がかかるだけの不動産は資産にあらず

筆者と税理士からは、下記のように提案を行いました。

 

●自宅不動産

費用面からも、売却して高齢者向けの手狭なマンションか、高齢者住宅に住み替えるのが現実的。

 

●賃貸アパート

維持には賃料アップが不可欠だが、中途半端な費用で修繕をしても、さらに築年数が経過すれば満室維持が困難に。早めに売却して別の新しい物件に買い換えるのがおススメ。

 

話を聞いた田中さん姉妹は納得した表情で、

 

「時間はかかるかもしれませんが、母を説得してみます」

 

といってお帰りになりました。

 

200坪の大邸宅と聞けば、素晴らしい財産に思えますが、年間数百万円の持ち出しがあるのなら、すでにそれは財産といえません。遺産として残されても、子どもたちには負担になるばかりです。

 

時代に合わせ、維持できる形に変えていき、負担なく有利な保有が実現してこそ、本当の財産だといえます。そのためには、発想の転換と思い切った決断が必要になるのです。

 

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

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