(※写真はイメージです/PIXTA)

社員の「やる気」が出ないのは、個人の努力が足りないからだと考える人も多いかもしれません。しかし実際は、上司や周囲との関わりや、会社の制度・処遇などの影響によって「やる気が下がってしまう」ケースも少なくないのです。松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)より一部抜粋し、「社員がやる気を失っていく上司」の典型例を見ていきましょう。

 

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【上司タイプ】メンバーとまともに向き合わない上司

⇒目を見て話さない。目を見て話せない

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「早く要件を言って」と目を合わせない

――「忙しい」が口癖タイプ

 

部下が「ちょっといいですか?」と話しかけに来る。上司はめちゃくちゃ忙しそう。そこで、上司はパソコンの画面や仕事の資料を見ながら、「ん。で、何?」と返事をする。

 

部下の「あの〜、じつはちょっと相談があって」に、上司は「うん」と返事をしつつも、目は画面や資料から離さない。部下が言いよどんでいるような素振りに、上司は「何、用があるなら早く言って」と促しつつ仕事を続ける。

 

これは、オフィスでよく見かける光景ではないでしょうか。

 

テレワーク中でも、こんな場面があります。

 

オンライン会議後、部下に「ちょっと相談が…」と言われて話を聞く素振りはするものの、キーボードを叩く音や、目があちこちに動くなど、上司は明らかに他の作業をしているのがわかる。パソコン2台持ちだと、別のパソコンに向いたままで、部下には横顔を見せている、なんていうことも。

 

いずれもよくありそうな場面です。しかし、そんなちょっとした態度の積み重ねが、部下のやる気をそいでいることに気づいているでしょうか?

 

「いや、話はちゃんと聞いているよ。耳を傾けているからいいでしょ。こっちだって忙しいんだからさ」。上司はそう思っていても、相手にそれが伝わっているわけではありません。

「う〜ん、言いにくいな」と視線を外す

――厳しい現実を伝えるのが苦手タイプ

 

人事考課や業務評価など、面談を行う機会でのこと。その際、真正面から部下を見て結果を伝える、ということができていない上司は少なくありません。

 

良い評価ばかりならいいけれど、できていないことや、うまくいっていないことなど、本人に不都合なことを伝えなければいけない場面で、つい言いよどんだり、視線を外したりしてしまう。できれば、良いことだけ伝えてその場を早く切り上げてしまいたい、という気持ちもわからないわけではありませんが…。

 

飲み会などでも、部下に「納得いきません」と詰め寄られた際、「まあまあ」となだめながら話を逸らそうとする。

 

これらは、一見すると優しそうな上司かもしれませんが、部下からすると、本音でぶつかってくれない「信頼できない上司」になってしまいます。

【改善策】コミュニケーションの基本、「傾聴」で信頼を築く

■人としてしっかり向き合う姿勢を示す

「忙しい」が口癖になっていて、つい目先の仕事に集中して、部下の顔をしっかり見ていない上司。自分では意識していなくても、心のどこかで、部下は自分の仕事の目的を達成するための道具くらいに思っていませんか? その気持ちが、態度に現れているのです。まずは、人としてきちんと相手を見ることが大切です。

 

たとえば、忙しいからと言って、相手をデスクの前に立たせたまま話を聞いている。いかにも片手間に話を聞かれている状況では、「相手を大切にしない」というメッセージを伝え続けることになります。

 

話をしに来た相手が、座って落ち着いて話ができるような配慮も必要です。よく話を聞いてくれる上司の席には、常に誰もが座れるイスが用意されていなかったでしょうか。そんなちょっとした配慮が、コミュニケーションでは重要です。

 

言いにくいことから逃げてしまいがちな上司も同様です。適当にごまかしているのはすぐに見透かされますし、「その程度でしか考えられていないんだな」と、部下のやる気をそぐことにもつながります。どんな話題であったとしても、相手と真正面から向き合い、きちんと話す。そこで「本気度」が問われているのです。

 

■日頃からの「聴く姿勢」が信頼関係を築く

熱血、温和などさまざまなタイプの異なる上司がいますが、部下からの信頼を得ている上司に大前提として共通するのは、相手をしっかり見て、視線を合わせ、きちんとコミュニケーションをとっていることです。

 

コミュニケーションは、表面上の言葉だけで成立するものではありません。その話題がされている際の、相手の話し方、表情やしぐさなどのノンバーバル(非言語)で伝えられることも大きなメッセージになります。

 

南山大学名誉教授で人間関係トレーニングなどの研究・開発者でもある津村俊充氏は、人間関係を観る視点を氷山のような図に表し、表面に出ている話題や仕事などの「コンテント」だけでなく、水面下にある、お互いがどのように話しているか、どんな感情が動いているかなどの「プロセス」が重要だと説きます(図表参照)。これは、2人でのコミュニケーションのときはもちろん、チームで話し合っているときも同じです。

 

「人間関係における『プロセス』を再考する」(津村俊充氏)の図をもとに作成
【図表】コンテントとプロセスの氷山図 「人間関係における『プロセス』を再考する」(津村俊充氏)の図をもとに作成

 

まさに、そのようなプロセスを重視したコミュニケーションによって、部下との信頼関係が生まれ、その信頼関係が仕事をスムーズに進めるためのベースとなります。日頃からそのような信頼関係があれば、本当に忙しくて顔を見る余裕すらないときも「今はそれほどまでに切羽詰まっているのだ」というメンバーの理解につながるのです。

「傾聴のスキル」における5つの重要ポイント

直接的な仕事の判断に関するような会話の内容だけでなく、相手の気持ちや考えをきちんと把握するには、相手の話をしっかり「聴く」ことが大切です。そのために役立つのが「傾聴のスキル」です。

 

「傾聴のスキル」で重要なポイントは5つあります。

 

1つ目は、話を聴く姿勢です。姿勢や視線、声のトーン、うなずきや相づちなど、聴いている姿勢によって、相手は「この人になら話をしても大丈夫だ」という安心感を得ていきます。

 

2つ目は、相手の体験をあたかも自分の体験のように感じたり考えたりできる「共感的理解」が大切です。

 

そのためには、3つ目のポイントでもある、判断しない、評価しない、そのままを受け入れるという「無条件の受容」が欠かせません。

 

たとえば、自分が悩みごとを抱えているときに、「そもそも、あなたの対応自体が問題だ」とか「そんなふうに考えるからダメなのだ」などと評価をされてしまうとしたら、そのような相手に誰が相談したいと思うでしょうか。まずは、そのままを受け入れ、話を聴いてくれる人に、人は胸襟(きょうきん)を開きます。

 

4つ目が、相手の語る話で、自分が理解したこと、理解できたことをきちんと伝えることです。「うん、うん」と話を聴くことも大事ですが、「今までずっと、こういうことを考えてきたんだね」「こんなことを言いたいのかなと、私は理解したよ」と相手に伝えることで、「この人はちゃんと聴いてくれている」という信頼感につながります。

 

そして5つ目として、そのような会話を深めていくためには、質問の仕方にも参考となるテクニックがあります。代表的なものが、「オープン質問(開かれた質問)」と「クローズド質問(閉じた質問)」です。

 

クローズド質問は、「はい・いいえ」で答えられるような質問です。最初はなかなか話しづらいときなどに効果的で、答えやすい「はい・いいえ」で会話をスムーズにはじめることができます。そこから徐々に、「それについて、どのように考えているのか」などオープン質問によって、深い考えや複雑な想いなどを語ってもらうことにつなげます。

 

 

松岡 保昌

株式会社モチベーションジャパン 代表取締役社長

 

1963年生まれ。1986年に同志社大学経済学部卒業後、入社したリクルートで「組織心理」学び、ファーストリテイリング、ソフトバンクでトップに近いポジションで「モチベーションが自然に高まる仕組み」を実践。

現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書に『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)がある。

 

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※本連載は、松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

こうして社員は、やる気を失っていく

こうして社員は、やる気を失っていく

松岡 保昌

日本実業出版社

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