(※写真はイメージです/PIXTA)

社員の「やる気」が出ないのは、個人の努力が足りないからだと考える人も多いかもしれません。しかし実際は、上司や周囲との関わりや、会社の制度・処遇などの影響によって「やる気が下がってしまう」ケースも少なくないのです。松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)より一部抜粋し、「組織が疲弊していく会社」にありがちな問題とその改善策を見ていきましょう。

 

【典型例】いまだに長時間労働が美徳

⇒時代の変化についていけていない組織

非効率な働き方が是正されない組織

■「在宅勤務もあるけど、やっぱりちゃんと出社すべき」「え~、有給? 何のために?」

残業の削減や在宅勤務など、働き方改革が進む会社がある一方で、いまだに先に帰ろうとすると「お疲れ様」と言いながらも表情では面白くなさそうにしている上司や先輩がいる職場。

 

昨今の働き方では、在宅勤務も認められるようになったにもかかわらず、「いや、やっぱり会社にちゃんと出てきてよ」と強制する上司がいる職場。

 

有給休暇の申請をしても、「え〜、何のため? 旅行?」と聞かれ、そんなことで休まないでくれよというオーラを出され、嫌な顔をする上司や同僚がいる職場。

 

このような時代に取り残されたような職場では、仕事へのモチベーションも下がってしまいます。

時代錯誤に気づかない上司がいる組織

■「やっぱり会議は対面に限るね」「パソコンはよくわからないから」

オンラインでの会議やセミナーが当たり前になり、テーマや内容によっては、それで十分ということも増えてきました。移動時間がなくなり、仕事が効率的に進められるようになったのです。

 

そのようななかでも、相変わらず機材のセッティングや操作は部下任せ。機材トラブルや操作でわからないことがあると、とたんに機嫌が悪くなり、文句ばかり。「やっぱり会議は対面がいいよ」と言う上司。

 

その上司はかつて、職場のOA化が進んだ際、「パソコンはよくわからないから」と時代に取り残されていった先輩たちのことなど忘れてしまったのか…新しいことをまったく覚えようとしない。

 

しかも、大学で「リカレント教育(社会人になった後でも、必要に応じて教育を受けることを意味し、『生涯教育』や『学び直し』とも言われる)」を受けているなど言おうものなら、「そんな暇があるなら、仕事してよ」と嫌味も言われそうで、職場では内緒にしている人までいる始末。

 

そんな職場では、やる気のある若手は「この会社は、ここまでかな」と見切りをつけることにもつながりかねません。

【改善策】仕事の付加価値を評価し、同調圧力を排除する

■「時間」ではなく「付加価値」で測る

長時間労働の是正や有給休暇を取ることへの理解など、頭ではわかっていても感覚としてまだ腑に落ちていない上司がいる組織は少なくありません。その原因の1つは、いまだに仕事を「時間」でとらえている点があげられます。

 

「どれだけ熱心に時間をかけて仕事をしているか」「仕事をするうえでは、時間を共有することが大切」など、「時間」で仕事を考えようとしているのです。

 

しかし最近は、時間との比例だけではない仕事も増えています。付加価値をどれだけ出したかが求められる仕事がそうです。そしてもっと言えば、かける時間が短いほど、効率は良いことになり、高効率で高付加価値な仕事こそ評価されるべきです。仕事の価値の再定義を、そろそろ本気で取り組む時代になっています。

 

その延長線上として、高付加価値を生み出せるようになるための経験の1つが「副業・兼業」です。2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定し、安心して副業・兼業に取り組めるよう企業に導入を促しています。

 

副業・兼業を行う人の背景は様々で、もちろん「1つの仕事だけでは収入が少なくて生活ができない」という理由もあるでしょう。しかし、それとは別に副業・兼業によって視野やネットワークが広がり、専業との好循環を生む効果も期待されているのです。多様な経験によって、その人の視野が広がり発想力が高まることは、組織へのプラスの影響をもたらすことにもつながります。

 

■行きすぎた「公平・平等」意識は、「同調圧力」を生む

「働き方改革」というフレーズは、ビジネスシーンでここ何年かよく聞かれます。厚生労働省が推進する「働き方改革」では、その基本的な考え方として「働く方々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で『選択』できるようにするための改革」としています。長時間労働の是正などを通じ、多様で柔軟な働き方が実現できるような職場づくりが、職場の魅力づくりにつながり、人材確保や人手不足解消、業務の効率化や生産性向上につながる好循環を生むという取り組みです。

 

しかし、かつての日本の組織では、できるだけ「公平・平等」であることが意識されていました。そのため、時に「周囲と同じ」ことを求めてしまう傾向があり、それが行きすぎると「同調圧力」となります。

 

少数意見を持つ人に対して、周囲の人と同じように考え、行動することを暗黙のうちに強制してしまう。「みなと一緒に、もっと長く働く」「勝手に休まず、一緒に頑張る」。そのような空気感が組織内に漂っていないでしょうか?

 

終業時間をすぎて、用もないのに上司が席にいて周囲を見回している。そんな行為も、じつは同調圧力として周囲に影響を与えていることを理解すべきです。

 

同調圧力は、度がすぎると、ハラスメントにもつながりやすくなります。無意識のうちに、パワハラ、セクハラ、モラハラなどの問題が起こりやすい環境をつくっていることも考えられます。「組織は頭から腐る」という言葉もありますが、上に立つ人の考え方によって職場に同調圧力が生まれないように、十分気をつけたいところです。

 

 

松岡 保昌

株式会社モチベーションジャパン 代表取締役社長

 

1963年生まれ。1986年に同志社大学経済学部卒業後、入社したリクルートで「組織心理」学び、ファーストリテイリング、ソフトバンクでトップに近いポジションで「モチベーションが自然に高まる仕組み」を実践。

現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書に『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)がある。

 

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※本連載は、松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

こうして社員は、やる気を失っていく

こうして社員は、やる気を失っていく

松岡 保昌

日本実業出版社

社員の「やる気」が出ないのは、個人の努力が足りないからだと考える人も多いかもしれません。しかし実際は、上司や周囲との関わりや、会社の制度・処遇などの影響によって「やる気が下がってしまう」ケースも少なくないのです…

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