(※写真はイメージです/PIXTA)

生産性の高い仕事をするうえでは、社員の「やる気」が重要なことは誰の目にも明らかです。「やる気」は個人の問題と考えられがちですが、多くの場合は職場の問題。実際は周囲の環境や関係性のなかで、上がりもすれば下がりもします。極端に言うと、下げる要因を取り除いていけば、勝手に「やる気」は上がっていくのです。松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)より一部抜粋し、見ていきましょう。

仕事の成果は「質」で評価される時代

経済が右肩上がりに成長した時代には、仕事を「量」で測ることも当然のように行われていました。

 

しかし、IT技術の進展やDX(デジタル・トランスフォーメーション)によって産業構造が大きく変化し、少子化による労働人口の減少も相まって、「量」ではなく「質」で仕事をとらえる時代に移行しています。

 

そのようななか問われているのは、「短い労働時間で、いかに良いアイデアを出すか、生産性を高めるか」です。

 

かつての生産性の向上というと、ムダな作業や時間を排除し、仕事を均質化して「効率良く」働くことが重視されました。

 

それも大切ですが、今求められているのは、より短い時間で付加価値の高い仕事を行うことであり、新しい何かを生み出すための創造的な視点での生産性の向上です。単に言われたことを粛々とこなすだけではなく、自ら考え、行動し、新たな価値を生み出せるような人材が必要になります。

「働きやすさ」だけでなく、「働きがい」の改革につなげる

2018年に「働き方改革関連法」が公布され、2019年より順次施行されていきました。「働き方改革」では、労働時間の短縮や年次有給休暇の確実な取得などが具体的な取り組みとしてあげられています。

 

ただし、これらは「働きやすさ」という労働条件の向上に焦点を当てたにすぎません。それにプラスして求められるのは、社員が「働きがい」をもって仕事に取り組めることです。

 

そのためには、仕事のあり方を根本から見直す必要があります。それぞれの人が、自分の存在価値を十分に発揮できるようにすることと、新しい価値を生み出すための「質」を重視した生産性の向上に取り組むことです。そうしないかぎり、本当の意味での「働き方」は変わりません。

 

たとえば、社員の働く時間を削減するつじつま合わせのために営業時間を短縮するという、顧客の視点を欠いた企業都合の改革によって、顧客の不満が積もっているケースも見受けられます。おそらく経営陣はその事実に気づいていないのだと思いますが、これはかなり危険な「働き方改革」です。

 

企画職やIT関連の業務のように、かたちの見えない知的生産物を創造する業務に携わる人たちだけではなく、あらゆる業種のあらゆる職場で働く人たちにも、新しい仕事のやり方や、新しい価値の創出が求められているのです。

 

そのような時代に大事になるのは、1人ひとりが仕事の本質を理解し、それぞれが創意工夫を凝らし、自ら積極的に仕事に取り組める環境づくりです。

「働きがい」のある組織づくりで大切な6つのこと

一橋大学教授の小野浩氏は、「働き方改革を目的化してしまうと、改革が終われば目的も制度も失ってしまうという危険をはらむ。企業としては目先の動きに囚われるのではなく、ポスト働き方改革でも意義のある、ありたい姿を目的化する必要がある」と述べています。そして、「社員が自由に発言して、自分の意志で柔軟に働ける企業は、社員が幸せになれる企業である。社員の働きがいとウェルビーイングが高くなれば、働く質と生産性は自然に高まり、働き方改革は結果として実現される」と述べ、個人という視点の必要性を強調しています。

 

「ウェルビーイング(well-being)」とは、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態を言います。「働きがい」含め、個人の幸福感のありようが働く質と生産性に大きく影響するのです。

 

小野氏は、「働く質を高めるための基礎条件」として、次の6つを挙げています。

 

①信頼と性善説

②権限委譲・自律性

③心理的安全性

④自主性・コントロール

⑤関係の質

⑥成果に応じた報酬

 

たとえば、誰もが安心して自分の考えや気持ちを話し、行動できる状態である「③心理的安全性」の有無や、相互理解や相互の尊重が得られ、信頼関係が培われているような「⑤関係の質」が良好な職場かどうかということは、価値創造に大きく影響します。

 

これらがあることで、「チームの力」が最大化されるのです。「チームの力」とは、物理的肉体的な協力だけではなく、誰もが「他人の脳」をも使って仕事ができる力です。

 

1人で考えているだけでは、その力は1以上にはなりません。そして、単に人が1人増えただけでは、1+1=2にしかなりません。

 

そして、人が2人いれば1本の線、3人集まれば3本の線でコミュニケーションがとれます。けれども、4人以上になると人数分の線ではコミュニケーションがとれないように「n×(n−1)÷2」という数式で、人のコミュニケーションの線の数だけ掛け算的にチーム力が高まる組織が理想です。

 

あるべき姿は、全員の脳を使ってアイデアを出し合い、そのアイデアに触発され、さらに次のアイデアが生まれる、という図式です。やがてそれらのアイデアが集約され、まったく新しい商品やサービスが生まれてゆく。このような現象は、あなたの会社で起きているでしょうか?

 

「①信頼と性善説」「②権限委譲・自律性」「④自主性・コントロール」は、いずれも1人ひとりの内面から湧き出る「やる気」につながります。信頼され、任されて、自分で意思決定しながら仕事を進められることは、仕事に取り組む「主体性」を生み出す前提となるのです。

 

サボらないか、不正をしないか、常に疑われて監視される。箸の上げ下ろしまで報告を求められる。任されることなどなく、すべて上から指示がくる。このような職場で「自ら積極的に仕事に取り組む」姿勢など生まれるでしょうか。

 

ただビクビクしながら指示を待つだけの受け身の社員となるか、自ら動く社員となるかは、社員本人だけでなく、組織を率いる者による影響が小さくありません。

 

また、「⑥成果に応じた報酬」とは、いわゆる給与や昇進・昇格などの報酬です。やった仕事をきちんと見てくれる。そしてきちんと評価して、ふさわしい処遇を与えてくれる。そうでなくて、「やる気」は持続するでしょうか。

 

社員1人ひとりをきちんと見て、適正に評価し、それに報いることができる人事の仕組みや制度がなければ、優秀な人から離れていきます。

 

これら6つの条件は、働く質を高めるためのチェックリストとして活用することも推奨されています。あなたの職場では、いくつ満たされているでしょうか? ぜひ、チェックしてみてください。

 

 

松岡 保昌

株式会社モチベーションジャパン 代表取締役社長

 

1963年生まれ。1986年に同志社大学経済学部卒業後、入社したリクルートで「組織心理」学び、ファーストリテイリング、ソフトバンクでトップに近いポジションで「モチベーションが自然に高まる仕組み」を実践。

現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書に『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)がある。

 

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※本連載は、松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

こうして社員は、やる気を失っていく

こうして社員は、やる気を失っていく

松岡 保昌

日本実業出版社

社員の「やる気」が出ないのは、個人の努力が足りないからだと考える人も多いかもしれません。しかし実際は、上司や周囲との関わりや、会社の制度・処遇などの影響によって「やる気が下がってしまう」ケースも少なくないのです…

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