(※写真はイメージです/PIXTA)

社員の「やる気」が出ないのは、個人の努力が足りないからだと考える人も多いかもしれません。しかし実際は、上司や周囲との関わりや、会社の制度・処遇などの影響によって「やる気が下がってしまう」ケースも少なくないのです。松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)より一部抜粋し、「組織が疲弊していく会社」にありがちな問題とその改善策を見ていきましょう。

 

【典型例】よくわからない人事異動がある

⇒「え、なんで?」不透明・不可解・不当な組織

「多少のことは我慢して」――会社都合優先型

「家を買ったばかり」「子どもが受験期で転校が難しい」「親の介護がある」など、そのような家庭の事情などお構いなしで、問答無用の異動辞令。むしろ「家を買うと転勤させられる」というジンクスがささやかれ、まるで忠誠心を試すかのような「昭和な人事」が横行する組織。

 

転職も当たり前になった時代に、そんな一方的な異動を繰り返す会社では社員のエンゲージメントは下がる一方です。実際に人材紹介会社へ転職相談に訪れたり、転職サイトに登録した人の話を聞くと、「転勤が退職のきっかけ」になった人も多いようです。

 

また、「ずっと技術職だったのに、いきなり営業のマネジャーなんて」や「人事が天職だと頑張っていたのに、今さら経理なんて」など、納得がいく理由の説明もない不可解な辞令というのも、人のやる気を下げてしまいます。

「まあ、あまり波風立たさず」――信賞必罰不全型

次のようなケースも社員のエンゲージメントは下がります。

 

「問題を起こした人が、罰も受けずに別部署に横移動しただけ」

 

「しっかり成果を出したにもかかわらず、部長とソリが合わないというだけで、なかなか昇格しない」

 

信賞必罰がきちんと機能していない組織では、納得感がなく、組織への信頼感が揺らぎます。

【改善策】社員が主体的にキャリアを考える仕組みをつくる

■「セルフ・キャリアドック」で個人を支援するという発想を持つ

転職が身近になった時代に、会社が一方的な忠誠心を求めるのはナンセンスです。

 

しかも、人生100年時代を迎えて、70歳まで働くのが当たり前になろうとしている現状、個人の職業人生は確実に伸びています。場合によっては、個人の職業寿命のほうが、会社の寿命よりも長くなることがあるわけです。

 

個人もそのことに気づきはじめ、70歳までどのように働くか、どのように生きるか、キャリア自律の意識が芽生えているのです。

 

そこで、多くの企業で導入されているのが「セルフ・キャリアドック」です。自社の制度として、すぐに導入できなくても、まずこの考えを理解して取り組むことが大切です

 

セルフ・キャリアドックとは、厚生労働省『「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開』によると次のように定義されています。

 

「企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み、また、そのための企業内の『仕組み』」のこと。

 

つまり、企業都合で一方的に人材育成を行うのではなく、従業員1人ひとりが自分のキャリアビジョンを持ち、主体的にキャリアを構築できるような視点に立った人材育成を行うことが必要になってきているのです。

 

キャリアコンサルティング面談やキャリア研修のなかで、「自分は何をしたいのか」「なぜ、この会社で働いているのか」を考える時間は、働く人1人ひとりが自分の仕事に価値を見出し、自分のキャリアにとって、この会社で働くことの意味や意義を確認する時間にもなるのです。

 

個人のキャリアを大切にするという趣旨で、人事の仕組みを一部変えるケースもあります。一方的な異動辞令ではなく、1人ひとりと話し合い、納得のいく異動のかたちや時期を考慮することも必要になるでしょう。

 

実際、本人が望まない転居を伴う転勤の廃止や、遠隔地への転勤の場合に自宅からのテレワークを認める会社も増えてきました。そのような仕組みや取り組みの有無は、従業員のエンゲージメントや仕事へのやる気に大きく影響します。

 

『「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開』厚生労働省の図を基に筆者作成
【図表】「セルフ・キャリアドック」の実施イメージ 『「セルフ・キャリアドック」導入の方針と展開』厚生労働省の図を基に筆者作成

 

■「ジョブ型人事制度」の視点で、個人の主体性を発揮させる

自律的なキャリア開発と関連して、「ジョブ型人事制度」を導入する企業も増えています。

 

「ジョブ型人事制度」は、端的に言えば、従来の「人に対して給料を支払う」というかたちから、「職務内容に給料を支払う」かたちへの転換です。この背景には、大きく2つの理由があります。

 

1つは、従来の給与体系ではとても確保できない人材が出はじめたことです。たとえば、AIやDX、データアナリストなど、世界規模で求められ、新卒でも1000万円を超える年俸が必要とされる人材を確保するには、既存社員とは別の職務として明確な「ジョブ型」を導入する必要性があるからです。

 

もう1つは、前述のように個人が自分のキャリアを意識することにより、仕事内容を自ら選ぶ機会を設ける必要があるからです。

 

「ジョブ型」にすることにより、それぞれの仕事(職務)に何が求められるのか、どんな能力やスキルを身につけなければならないのかがわかるようになります。そうすると個人としては、やりたい仕事に就くための準備ができるのです。

 

一方、会社はポストの空きや新しい仕事などの募集を社内にかけ、社員が自発的に手をあげてキャリアを積めるようにするのです。そのように働く1人ひとりが主体性を発揮できれば、仕事へのモチベーションは高まります。

 

100%「ジョブ型」に変更できなくても、その視点を導入することは有効です。働く1人ひとりを大切にすることが、結局、会社にも個人にもプラスになるのです。

 

 

松岡 保昌

株式会社モチベーションジャパン 代表取締役社長

 

1963年生まれ。1986年に同志社大学経済学部卒業後、入社したリクルートで「組織心理」学び、ファーストリテイリング、ソフトバンクでトップに近いポジションで「モチベーションが自然に高まる仕組み」を実践。

現在は、経営、人事、マーケティングのコンサルティング企業である株式会社モチベーションジャパンを創業。国家資格1級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザーとして、個人のキャリア支援や企業内キャリアコンサルタントの普及にも力を入れている。著書に『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)がある。

 

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※本連載は、松岡保昌氏の著書『こうして社員は、やる気を失っていく』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

こうして社員は、やる気を失っていく

こうして社員は、やる気を失っていく

松岡 保昌

日本実業出版社

社員の「やる気」が出ないのは、個人の努力が足りないからだと考える人も多いかもしれません。しかし実際は、上司や周囲との関わりや、会社の制度・処遇などの影響によって「やる気が下がってしまう」ケースも少なくないのです…

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