事例をもとに、会社組織を崩壊させるリスクと、その回避策を解説する本連載。今回の舞台は、全国に支店をもつ、夜の世界では大手と称される企業。身内から次期社長を……というのは諦めて、社内の幹部社員から後継者を選ぶことを決断しました。誰が適任か、極秘の社内調査を進めていった結果、驚きの事実が発覚。みていきましょう。

【事例】社内調査で発覚!人を潰す「人材クラッシャー」の存在

今回取り上げるB社は、約20年前に設立されたナイトエンタテインメント、いわゆる夜の世界では大手にあたる企業です。請負契約にあたる女性キャストを除く従業員数が200名。急速に拡大し、今では全国に支店を持っています。

 

やりて経営者のH氏は業界でも一目置かれる存在ですが、55歳になり、会社の今後と後継者について真剣に考えるようになりました。60歳までには後進に社長の座を譲り、かつての夢であった海外進出へ挑戦したいという思惑があったからです。しかしながらここで問題なのが、自分の人生の集大成ともいうべきB社を誰に託すかということでした。

 

H氏には妻との間に3人の息子(社会人、大学生、専門学校生)と1人の娘(高校生)がいます。しかしながら、風営法上の風俗業である自社を、子どもたちに継がせるつもりはまったくありません。継がせないことを前提に、小さな時から、進学、習い事などに注力してきました。

 

家族に後継がいなければ、社内の幹部社員から後継者を選ぶことになります。B社はH社長の考えのもと、経歴不問の実力主義、成果主義を掲げ、優秀な社員は入社から一年も待たずに店長に抜擢するなど、昇進と昇給で頑張りに応えてきました。そのため、幹部にまで昇格した面々は、アクは強いが確実に頼りになる者たちだったはずでした。

 

ところが困ったことに、派閥争いが激しく、二大派閥のどちらから選んでも、もう片方の派閥からの猛反発、造反は避けられない状態でした。その一触即発とでもいうべき緊張感は、起業直後の社員が他にいない時から働いていた副社長が70歳を迎え退職してから、悪化します。前職は博物館の職員だったという風俗業界では異色の存在でしたが、「創業から苦楽を共にした」「売上や業績は関係ないナンバーツー」は色々な意味で緩衝材の役割を担っていたのです。

 

悩んだ末、H社長は、あえて二代派閥のどちらにも属さないバランサーとして有能な人物はいないかと社内調査を開始することにしました。「5年あれば、僕が直々に育て上げる!」。H社長の脳裏にはすでに数名の候補が浮かんでいました。

 

この極秘プロジェクトとでもいうべき調査は、仕事ぶり、周囲や他部署からの評価、借金、ギャンブル、違法行為、過去の犯罪歴の確認、SNSチェックなどを含みます。さらに外部の調査会社を通して行った現職従業員チェックと採用前調査を行ったところ、意外な事実が判明しました。

 

それは社内のある部署における後輩を潰すリーダーの存在でした。H社長自身、離職率の高さは仕方がない、そういう業種だからと甘く見ていた節があったのですが、今回の調査でリーダーのパワハラ、虐めの深刻さが判明したのです。能力や根性が足りない人しか来ないといい、すべての穴埋めを、休みも取らず一人で背負っているように見せかけて、自分が気に入らないメンバーや、自分を追い抜きそうな人物は潰していたため、毎月のように離職者が出ていました。正に人材クラッシャー。

 

腐ったりんごがひとつあると、箱の中の他のりんごも駄目になってしまいます。求人、採用、研修と様々な人材育成に励んでも、会社を担う人材がどうも育たないなら、あなたの会社にも人材クラッシャーがいるのかもしれません。

 

※本記事で扱っている事例は、プライバシーの観点から適宜、変更しています。

 

株式会社企業調査センター

角田 博

剱持 琢磨

 

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