多くの日本の企業が直面している「人材確保」の問題。なかでも、大・中企業が元請け会社となり現場で働くのは曾孫請けであったり、複数の派遣会社を介して作業員と契約を結んだりすることも日常茶飯事である「解体業など現場仕事」では、さまざまな弊害も生まれています。今回、人材確保に奔走する、ある解体業経営者が経験した苦労についてみていきます。※本記事で紹介している事例は、事案特定を防ぐため設定等を変えています。

何でもありは通用しない…人材確保に苦戦する「現場仕事」

人手不足が叫ばれている今、大手でなく中小、あるいは小規模事業者やいわゆる零細企業であれば、人員確保に非常に苦労していることは想像に難くありません。しかも、ブルーカラーのなかでも特に若者に敬遠されがちなのが、キツイ、汚い(汚れる)、臭い、危険な仕事である解体業など、現場仕事がその代表です。

 

この傾向は今に始まったことではなく、昭和の時代から、現場の日雇い仕事や下請けには、特殊事情の若者や中高年者は少なからずいて、そういった社会に居場所のない人のセーフティネット的な役割を果たしてきました。それはそれで社会的な意義がある素晴らしいことなのですが、そういった訳ありな人や荒っぽい気風が、応募者を限定してしまう一因になった点も否めません。

 

そんななか、急速に進む少子高齢化。それだけでも苦しいのですが、さらに時代の流れでコンプライアンスの厳格化に伴い元請け企業や社会から、従業員のバックグラウンドについても「何でもあり」は許されなくなっています。一方で、最近は解体現場には、外国人労働者が多く見られるようになりました。作業員が出稼ぎ外国人労働者というだけでなく、下請け会社自体が外国人によって経営されているということも特に関東地方では珍しくなくなりました。

 

意気のいい若者を雇いたい。だが、問題行動やトラブルを未然に防ぐためにも、採用者の質を担保したい。企業の採用・雇用責任、あるいは請負契約の発注・受注責任が重視される今日、人手不足や移民の問題は諸刃の剣となり、中小企業は難しい舵取りを求められています。

解体業経営者…コンプライアンス厳格化と人手不足の板挟み

記録的な猛暑のなか、タオルで汗を拭きながら現れたK氏は体も声も大きく、仲間内でまさに頼れるアニキ的存在であろうことが伝わってきます。そんなK氏が中学を卒業し解体業や建築業に従事してから20年以上経ちます。物おじしない性格で腕のいいK氏は20歳になるかならないかでリーダーシップを発揮するようになり、今では小さいながらも自分自身の解体業会社を経営しています。

 

ところがそんなK氏も最近は悩みが尽きません。職人の高齢化と請負仕事の低賃金化。人手不足や資材不足と納期の短さ。自分たちの時代とは上下関係や仕事についての価値観がまったく異なるZ世代。コンプライアンス厳格化と人手不足。そしてそこに追い打ちをかけるのが、昔ながらのこの業界の処世術では通用しない反社や半グレの介入です。

 

上場大手から仕事を請け負うときに、コンプライアンスについて念を押されることが増えました。コンプライアンスが重要であることはK氏も異論はないのですが、机上の論理と現場の状況は必ずしも一致しない、そんなことをいっていたら仕事が進まないという思いもあります。しかしながら昨今は、元請けや顧客がリスクを避けるために下請けや請負会社にキツキツのコンプライアンスを課してくることは少なくありません。一方、コストパフォーマンス重視が進み、とにかく安く早くを求められ相見積もりを取られることが基本となっています。こうなると、その矛盾や無理の皺寄せは請け負った自分たちに来てしまいます。

 

そんな状態では、経験と技術のある経験者を採用できるかどうかが非常に重要となります。K氏は絶えず、自社の職人や知人に「いい人がいたら紹介してほしい」と声をかけていました。

 

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