(※画像はイメージです/PIXTA)

簡単に家族関係を崩してしまう「相続争い」。特に不動産を代々継承している地主の場合、早め早めの準備が肝要です。本記事では、次男という立場で亡き父から不動産を受け継いだ三田博氏(仮名)の事例とともに、地主の相続対策について、ティー・コンサル株式会社代表取締役でメガバンク・大手地銀出身の不動産鑑定士である小俣年穂氏が解説します。

家族会議で過去の経緯を公開…甥から理解を得る

以下の赤枠のメンバー総勢9名(86歳の長女は高齢であり不参加)を集めて会議を設けた。そこに真田と里見も加わった。

 

出所:筆者作成
[図表5]家族会議への参加者 出所:筆者作成

 

冒頭、三田博から話を行った。過去の経緯やその当時の心境など関係者に伝えるべきであると考えていたことから話を始めた。

 

当初、本人としては継ぐつもりもなかったが父親からの強い要望もあり応じることとしたこと。父や母の相続時は、親族間での揉めごとの発生や、バランスを取ることに大変苦労したこと。

 

財産を減らさずに残すことは非常に困難であり、多くの協力を仰ぎながら計画的に承継していくことが重要であること。資産に関しては個人に帰属するものではなく、あくまでも一族の所有物であるという認識が必要であること。

 

今後長く承継していくためには一族全体の力を結集する必要があること、などを説明した。

 

その後、真田と里見から資産の現状、今後不動産を購入のうえ対策を進めていくことを説明した。購入する不動産については三男の所有する不動産(三男が父親から相続したもの)を博氏個人で購入することで対策をすることにした。

 

実は、三男家との個別面談時に、真田から提案をしたところ快く応じてくれていた。また、博氏にとっても、第三者から購入するよりも当初から関連の深い物件であることで安心感があった。当該対策で、現状では相続税の納税額は手元資金で支払い可能な水準と推測されることを説明した。

 

最後に博氏から重要な内容として以下の説明を行った。

 

・長男家の長男(以下「次期後継者」)とは養子縁組を行い次の当主としての役割を担って欲しいこと
・息子については後継者がいないことから、そのサポートに回って欲しいこと
・養子縁組後遅滞なく資産管理会社の株式の99%を次期後継者に贈与(現状では株式評価「ゼロ」)すること
・残りの1%については属人的株式として博氏の議決権を増やし、経営について意見を言える状態としておくこと
・公正証書遺言を作成し、土地についても次期後継者へ承継させること
・大筋は上記のとおりであり、外的要因による変動があれば皆で協力のうえ適宜修正のうえ対応に当たっていくこと
・当面の間は、真田氏、里見氏を顧問として採用し、方向性にずれがないか検証を行ってもらうこと

 

叔父から次期後継者として指名され、正直驚きを隠せなかったが、叔父の一族を残すための決断には感銘を受けた。今後のことを考えると楽観的ではいられないが、次の代へバトンを渡すことに注力しようと覚悟を決めた。

1年で相続対策が完了

会議で取り決めた内容を受けて、矢継ぎ早に対策を進めていった。養子縁組からスタートし、不動産の購入、遺言の作成へと概ね1年間で実行した。

 

当初、息子については不満を募らせるのではないかと心配をしたが、協力的に対応にあたってくれている。その結果としては図表6のとおりとなった。非常に駆け足となってしまったが、これで承継の準備は最低限できたと安堵した。

 

出所:筆者作成
[図表6]整った継承準備 出所:筆者作成

まとめ:相続争いは「内容の共有不足」が原因に

・80代の承継においては心身の衰えもあることから積極的に親族の協力を仰ぐこと
・将来的な揉め事を防止する観点でも、承継についての明確なメッセージを伝えること
・承継の具体的なフェーズに入る必要があること
・外部専門家の力を借りて円滑な承継のサポートをさせること
・「争族」の原因は内容の共有ができていないことに起因するものが大きいこと
・日ごろの業務などにおいても後継者を同席させること

 

以上のポイントを押さえることが重要である。

 

 

小俣 年穂

ティー・コンサル株式会社

代表取締役

 

<保有資格>

不動産鑑定士

一級ファイナンシャル・プランニング技能士

宅地建物取引士

 

 

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