姉がボケていく母に付け込んでいる?50歳弟の相続対策
渋谷義博(仮名)は地元市役所で勤務する公務員である。5年前に父親が闘病の末に死去し、税理士の助言もあり配偶者控除を勘案して母親と2人で不動産を承継した。義博には姉がいるが、父が加入していた保険金の2,000万円を姉が相続する形で遺産分割協議を行った。
姉は当時シングルマザーとして、一人娘を養育しており、学費や生活費として使えるように金融資産を多めに渡すことにした。
不動産については義博単独所有と、母親単独所有、義博と母親の共有の形で相続をした。父親からも生前「渋谷家」の長男として、しっかりやっていくようにと度々言い聞かせられており、父の遺志にも即した形である。
父の相続から5年経過し母親は80歳になった。最近では母親の気持ち的な落ち込みがみられ、物忘れも進んでいるように感じている。たまに外出をしているようで、気分転換はしているようだが、いつ認知症と診断されるかわからない。
また母親の年齢のことを考えても急速に衰えていく可能性もあることから急ぎ対策を進めていく必要性を感じていた。
渋谷家は地元を拠点とする地方銀行と古くから融資や預金の取引があり、年始やお盆の時期などは支店長と担当が挨拶に来ている。銀行からしてもいわゆる「重点先」の位置づけであり、他行からの被肩代わりを予防する観点からも支店長自ら定期的に訪問を行っている。
前回、義博のもとへ訪れ面談した際には、母親の相続について対応を進めていきたいとの話を聞き、早速行内でも優秀であると評判の提携先の専門家らが招聘された。その翌週には、義博宅にて当該専門家らを含めた相続対策に向けた協議を行った。
義博の意向に従って定めた承継の方針としては、まず母親の認知症対策として義博を受託者とした家族信託の組成および義博氏を後見人とする任意後見制度の準備を行うこと。
そのほか母親と義博氏の長男との養子縁組、母親単独所有の古いアパートの建替え、公正証書遺言の作成を行う計画を立案された。これらのすべてが完了すれば、当面は納税資金の心配も不要であると目論んでいた。
義博は策定した計画に即して実行フェーズに移した。ところが、母親の口座を確認すると預金残高が大きく減っていることに気が付いた。母親に、なににお金を使っているのか問いただしたところ孫(姉の娘)の学費や予備校代、生活費用として援助をしているとのことであった。
姉は、2年前に姉の大学時代の同級生と再婚をしており、時系列で口座の流れを追うと結婚を機に母親の口座からの資金流出が増えているようであった。父親の相続時にまとまったお金を渡したはずなのに、すでに使い切ってしまったのであろうか。
姉は母の認知能力低下に付け込んでいるとしか思えず、また状況から考えても再婚した夫の入れ知恵であるに違いないと考え、渋谷家を守る意味でも早急に対策を進めることにした。支店長にも「急ぎ相続対策を進めたい」と連絡を入れた。
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