「買付証明書」の発行元の正体
真田と里見は依頼者である松田香織宅へ訪問した。
資産管理会社を設立することで多くの課題が解消できることを説明した。また法人名に「松田」を残すことで、ご主人の思いも繋いでいく提案を行った。建物についても適切な維持管理がなされてきていることからこのまま暫くは使えることを伝えた。
最後に、真田から売却について重要なことを説明した。真田が当該不動産を評価したところ対象不動産の価格は8億円であり、不動産業者が提示した5億円はかなり相場よりも低い水準であることがわかった。
昨今、対象不動産の存する最寄り駅の周辺では、再開発組合が設立されるなど、今後発展していく傾向を示しており将来的な利便性向上(≒不動産価格の上昇)を睨んで積極的に不動産購入する不動産業者が増えており、結果として不動産価格が徐々に上昇してきている。
また、当面その傾向は続きそうであり転売を目的とした売買も盛んにおこなわれていることが判明した。
セミナーを開催した不動産会社もその点に目を付けており、周辺にチラシをまき不動産オーナーから安く購入することを狙っていたことが窺える。
さらに、買主として買付証明書を発行していた会社は真田が調べた結果、実はセミナーを開催した不動産業者と同一グループであり、苦労して買付証明書を取得したというのは「まったくのデマ」であることが推測された。
依頼者は、ずっと感じていた違和感の正体が判明し安堵した一方で、不動産の知識に乏しい高齢者を狙い、あたかもいい条件であるように誤認をさせるような営業手法に憤りを覚えた。
また、長女が買付証明書を見かけなければ、場合によってはそのまま売却をしていた可能性もあったことから、日ごろから家族と情報を共有しておくことや、専門家の意見を聞くことの重要性を感じた。
家族へ相談、理解を得る
今回の一件をふまえて、真田からの助言もあり松田香織は自分1人で抱え込まずに家族と相談をしながら対策を進めていくことを決めた。会議には、長女、次女、次女の夫、そのほかに真田と里見が加わった。
香織から、相続の不安に付け込まれ、危うく不動産を売却することであったこと。たまたま長女が書類を見かけて冷静になれたこと。真田らから相続対策の提案などを受けて、客観的かつ冷静に進めることを決めたこと。年齢的にも、1人で対処していくことは難しいので娘2人にも協力を仰ぎたいこと、などを説明した。
その後、真田と里見から承継について策定した内容を説明した。
おおむね2時間にわたり、資産管理会社を設立して「松田」姓を法人名として残すこと。建物については法人化し、将来の修繕や建替え、相続税納税資金にかかる費用に充てるため計画的に内部留保していくこと。
不動産は1つであり、相続によりわけることは困難(共有の場合、親族内で最も揉めやすい要因となるため)であることから、法人化からの給与にて平等になるように支払いを行うこと。
現状において納税資金は不足する可能性があるが、個人から建物分の相続資産が減少する点や、無償返還の届出により土地評価も一定額引き下がること、小規模宅地等の特例の適用もできることなどを説明し、香織氏の資産の増加を抑制していく方向性を示し、参加者の理解を得た。
不明点がないか確認したところ、株主についてはどのように承継していくべきかとの質問が長女からあった。株については当初は香織氏にすべて持ってもらうこと、かつ代表者としても事業にあたってもらうことを説明した。
その後、株式も相続財産となることから長期的な承継を勘案して、どこかのタイミングで次女一族の誰かに渡していく方向性であることを伝えた。もしかしたら長女は、次女一族に多く資産が承継されることに不満を感じているのかもしれないと真田は思った。
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