「区分所有法」の改正と「建替え円滑化法」の制定
2002年に区分所有法が改正され、建て替え決議の要件が緩和された。建物の維持・修理に過分の費用を要するときに限り、建て替え決議ができるとした「老朽化要件」を削除するとともに、同じ敷地で同じ使用目的の建物を建てなければならないとする制限も撤廃された。従来は認められなかった隣地を含めた建て替えや新たに店舗を入れた建て替えをすることもできるようになった。
つまり、建物が建設されたときからの経過年数や建物の傷み具合は不問とされ、区分所有者が合意すれば建て替えを決議できることになったわけだ。また、「建替え円滑化法(マンションの建替え等の円滑化に関する法律)」の制定により、管理組合が建て替え決議をした後、知事などの認可で建て替え組合を設立できることや、デベロッパーなどの民間事業者が参加組合員として建て替え組合に参加できることなどが制度化され、建て替え事業を進めるための手続きが明確になった。
こうした法の整備にあわせて建て替えや改修について進め方も具体的に示された2003〜05年にかけて国土交通省は「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」や「マンションの建替えに向けた合意形成に関するマニュアル」といった6種類のマニュアルを作成し、税制や都市計画上の措置も含め、高経年マンションの再生を支援する制度インフラの整備が進んだ。
しかし、こうした制度面での前進にもかかわらず、震災による再建や耐震偽装事件による建て替えを除くと建て替えの実績がきわめて少ないのはすでに見たとおりである。
区分所有者は「権利調整」を意識する必要があるが…
建て替えが進まない大きな理由は、区分所有者の大多数の合意が必要というマンションの仕組みや権利調整について、区分所有者の理解が進まないままマンションが普及したことである。
戸建て住宅の場合は、個人や家族が住宅を所有しているため、いつ、どのような建物に、どの程度の費用をかけて建て替えるのかは、法律の枠内であれば、すべて所有者の意思で決めることができる。しかし、区分所有建物であるマンションの場合は、各区分所有者の個別の意思だけでは改修や建て替えをすることができず、区分所有者の5分の4以上(改修の場合は4分の3以上)が合意しなければならない。
建て替えなどを視野に入れた終活と再生を進めるためには、区分所有関係という特殊な権利関係を理解し、意識的に権利調整に取り組む習慣を身につける必要がある。残念ながらこうした権利調整の重要性は、第一世代のマンションに限らず区分所有者全体にまだ理解されていない。
権利調整の重要性を理解しても、さまざまな事情を抱える区分所有者が、同じ時期に一定の費用負担をすることにくわえて、生活に大きな影響を与える建て替えに合意するのは、容易なことではない。高齢の区分所有者は心理的、身体的な不安も含め、現状を変えることへの抵抗が大きい。建て替えに必要な費用負担が困難な区分所有者は、建て替えを検討すること自体にも反対することが多い。
また、建て替えは日常管理や大規模修繕工事などに比べて、はるかに多額な資金が動くことになるため、区分所有者の間で不信感や猜疑心も生まれやすい。マンションの将来への不安を感じたとしても、他の区分所有者から「自分の利益を考えているのではないか?」と疑われることを懸念し、管理組合に建て替えの検討を提案しにくいこともある。
建て替えを検討するためには、専門家の関与が不可欠なことが多いが、そのためにも費用が発生する。建て替えが可能かどうかを検討するためだけに数百万円が必要になることもあり、資金の支出について合意が得られないため、先に進めなくなるマンションも珍しくない。
こうしたことから、マンションの将来について不安を感じ、打開策を積極的に考えたい区分所有者は、建て替えなどの問題提起をすることによる他の区分所有者の反発を恐れ、合意形成への努力をしないまま、住戸を売却することで区分所有関係を離脱することになる。しかも売却された住戸を購入した新たな区分所有者の多くは、住宅ローンを利用するから、追加の負担をともなう建て替えや改修には賛成しない。
こうして打開策を見出すことができないまま、事態は悪化することになる。