※写真はイメージです。本文、書籍とは関係ありません。

今回は、マンションの終活と再生を推進する「終活アドバイザー」の必要性について説明します。※本連載では、飯田太郎氏、保坂義仁氏、大沼健太郎氏の共著、『人口減少時代のマンションと生きる』(鹿島出版会)の中から一部を抜粋し、老朽化した第一世代のマンションの「終活」と「再生」の具体的な進め方について解説します。

区分所有者の「それぞれの事情」をお互いに理解する

マンションには、家族構成、年齢、購入時期、経済状態などが異なるさまざまな区分所有者がいる。たとえば、年金生活で資金力に乏しい高齢者世帯と、親が購入した住戸を相続で取得した比較的若い世代の世帯とでは、マンションの将来や再生の必要性についての考え方が違うのが普通である。また、すでに住宅ローンを返済した区分所有者と、比較的最近になってローンを利用して購入した区分所有者では再生資金の調達力に差がある。

 

最近は共用部分が老朽化したマンションの専有部分の内部だけを改装したリノベーション・マンションが市場に出回り、これを購入した区分所有者も増えている。このように、購入時にはほぼ均質だった区分所有者の経済的条件も多様になっている。

 

こうしたさまざまな事情や条件をもった区分所有者がいるため、マンションのこれからについて話し合う共通の土俵がつくりにくく、話し合いを避けてきたのが管理組合の一般的な状態である。

 

多くの区分所有者が、このままでは将来困ったことになる思いながらも、管理組合の会合などで口に出すことをためらっている。うかつに検討をしようなどと言いだせば、収拾がつかない混乱がおきることになりかねないため、「寝た子を起こさない」ようにし、そっとしている状態だといえる。

 

このまま話し合いを始めることができず、問題を先送りしたまま、建物の老朽化、区分所有者の高齢化、所得減少などが進むと、合意形成はますます困難になるという悪循環に陥ることになる。区分所有者のさまざまな事情をお互いに理解することが終活と再生の出発点である。

 

終活と再生に向けた話し合いをすることは、建て替えやリノベーション(改修)のための議論と同じではない。「建物をどうするか」を検討する前に、自分たちのマンションで生活をするうえでの課題や、その課題に自分がどのように対応しようとしているのかを、「会議」ではなく「茶飲み話」として始めることが、遠回りのようだが悪循環を断ち切ることになる。

 

いまのマンションにいつまで住み続けるのか? 維持管理・修繕・改修などをどの程度のレベルで行い、その費用をどの程度負担していくのか?建て替えざるをえない時期が来るのはいつごろか?といったことについて、区分所有者それぞれの思いや考え方を知ることである。

心身の負担がのしかかる「管理組合の役員」

終活と再生についての議論が行き詰まりやすいのは、それが現実的な課題になり切羽詰まった状態になった段階で突然問題が浮上するからである。まだ問題が現実的な課題となる前から、マンションを所有するからは必ずいつかは直面することであることが認識され、折にふれて意識を喚起することができれば、戸建て住宅に住まう感覚と同様に、自分の住まいの将来について考える姿勢が築かれていくだろう。

 

また、マンションの終活や再生の計画を、区分所有者やその家族が参加してつくることもひとつの方法である。課題や解決の選択肢が家族で共有されていれば、問題がある日突然浮上する場合よりも、スムーズな話し合いができるはずである。

 

マンションの再生は基本的には区分所有者の生活設計を集約してマンションの将来を決めていくことである。だが、多様なライフステージや生活設計の区分所有者が混在し、費用を負担したくない者や負担できない者も存在するなかで、相互に矛盾するニーズを調整するために話し合いをすることは、区分所有者にとって面倒なばかりでなく、場合によっては不愉快なことでもある。

 

マンションのこれからについての話し合いをすることは、お互いの家庭内の事情や経済状態を否応なしに知ることになる。自分の氏名さえ他の人に知らせたくないと思う区分所有者や居住者が増えるなかでは、話し合いの場に参加することすら拒否する人も多い。

 

こうしたなかでまとめ役とならなければならない管理組合の役員には特に大きな心身の負担がのしかかる。近年、管理組合の役員を引き受けたくないという区分所有者が増える傾向にある。日常的な管理についてはまだしも、終活や再生という重いテーマに関わりたくないと思う区分所有者が増えることは不思議ではない。

 

マンション管理の主体である管理組合が、終活の担い手になることは実はそれほど簡単なことではない。終活や再生への取り組みには日常管理の延長である側面と、管理の域を超えた各区分所有者の権利関係に踏み込む側面がある。管理組合が再生に取り組むためには、日常の管理業務とは違うレベルの将来に向けた持続的な話し合いのファシリテート、終活に関わる実務をサポートする者も必要である。

 

つまり、さまざまな事情を抱え、さまざまな考え方をもつ区分所有者の相互理解を深め、利害調整の素地をつくるということは、マンションの通常の維持管理とは質的に異なる専門知識やファシリテーション能力が必要とされ、管理組合理事長を補佐し、場合によれば理事長の管理者としての責任を代行して合意形成の推進と事業の円滑な実施についてリーダーシップを発揮する「終活アドバイザー」を、自治体がマンション管理士や管理会社の協力を得て育て、養成していくことも必要になるだろう。

 

特に一括売却制度の利用を考える場合は、買い受け人候補となる複数のデベロッパーなどを募り、最も有利な条件の買い受け計画を作成させることが必要になるが、これも「終活アドバイザー」の重要な役割になるに違いない。

どの世代のマンションにも共通する課題

人口減少と高齢化が進むなかで、利便性の高いマンション居住を選択する、このことは今後地方都市でも増えることが予想される。すでに大都市圏で始まっているマンションが主要な居住形態になる社会が、伝統的な集落の崩壊と並行して地方にも広がることになる。それだけに築年数が経過し、建物の老朽化と区分所有者の高齢化という「二つの老い」に直面したマンションが、終活と再生への「出口」を見出すことができず「スラム化」することは、物理的にも心理的にも社会全体に大きな負の影響を与えることになる。

 

元気なうちに人生の幕引きを準備する終活に取り組む高齢者が増えているが、マンションについても終活と再生を真剣に考える必要がある。どのようなマンションでも、いつかは物理的、社会的な耐用年数に到達、再生を検討する時期を迎えることになる。ただし、多くの区分所有者の共有財産であるマンションの終活は、個人の場合よりも難しい。さまざまな世代、生活設計、経済力が違う区分所有者の意見をまとめるのは容易なことではない。結論が出るまでには長い時間がかかるはずである。

 

個人の終活が、老いが進み意思決定ができなくなる前に、いわば人間としての尊厳を守るために始めるのと同様に、集団としての区分所有者が自分たちの資産と暮らしについて、自分たちの力で展望をもち、具体化するのがマンションの終活と再生である。

 

マンション管理の基本的な要素であるカネ、ヒト、モノが切羽詰まった状態に陥らず、管理組合による意思決定ができるうちに、マンションの将来と「出口」を考える終活と再生に取り組むことは、どの世代のマンションにも共通するすべてのマンションの課題である。

 

本稿では、特に築年数が35年を超えて二つの老いが進むうえに、耐震性に不安がある第一世代のマンションの終活と再生について考えてきたが、これは第二世代、第三世代のマンションの区分所有者や管理組合もいつかは直面する、決して他人事ではないテーマである。

本連載は、2015年8月20日刊行の書籍『人口減少時代のマンションと生きる』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

人口減少時代の マンションと生きる

人口減少時代の マンションと生きる

飯田 太郎 保坂 義仁 大沼 健太郎

鹿島出版会

10人に1人が暮らすマンションに、やがて迫り来る住民とマンションの「2つの老い」。 管理会社任せにせず自分たちで考える、維持管理から資産管理、コミュニティ、そして「終活」まで。マンションとの生き方を真摯に考える一冊…

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