初動が大切な「有志」の自主的な勉強会
ここまで繰り返し指摘してきたように、第一世代のマンションは課題があまりにも多く、区分所有者や管理組合が終活と再生に取り組むことが困難な状況にある。しかし、現状を放置すれば状況はますます悪化する。区分所有者にとって、少しでも有利な条件で問題を解決するために、できるだけ早く終活と再生に取り組むべきである。
第一世代のマンションの区分所有者や管理組合が、これから取り組むことができる終活と再生の概要を、第一世代前期と後期のそれぞれについて考えることにする。
既述のとおり、1971年の建築基準法改正より前に建設されたいわゆる「旧旧耐震」マンションの場合、耐震性はかなり劣っている可能性が高い。そのうえ、制度インフラがほとんどない時代に建設・分譲されたため維持管理状態も悪く、老朽化が進行し、雨漏りや水漏れ、ガス漏れ、外壁の剥落、鉄筋の露出、鉄部の腐食などが顕在化しつつあるものが少なくない。また、住戸面積が狭い、階高や廊下・階段の幅といった機能面でも現在の水準に比べて見劣りがするものが多い。
区分所有者の高齢化も進み、賃貸されている住戸や空き家も増加していることが想定される。流通価格の下落が進み、地域によっては流通市場から脱落しているものもある。余剰容積のある場合を除いて、建て替えにも多額の費用負担が必要となり、改修もままならない状態を放置しておけば、状況はますます悪化し、スラム化するおそれもある。
第一世代前期のマンションが終活と再生にかけることができる時間は多くない。マンションが危機的な状況に一歩一歩近づいていることを区分所有者が理解し、資産価値を守るためには、これまでの常識にとらわれない取り組みが必要なことを共通認識とすることが、終活と再生の出発点になる。
管理組合の総会や理事会の場で終活と再生について話し合うことができれば、それに越したことはないが、実際には有志の自主的な勉強会としてスタートすることが多いかもしれない。居住者どうしでこれまでマンションの将来について話してこなかっただけに初動が大切である。総会や理事会といった形式にとらわれず、とにかく話し合う機会をつくることが必要である。
自主的な勉強会の場合でも、他の区分所有者にどのようなことが話し合われているのかを知らせる情報の開示も重要である。マンションに居住していない区分所有者が多いマンションでは、面倒でも経緯を細かく伝えるようにしたい。アンケートをきめ細かく行うことも、無関心を装っている区分所有者の心を開くうえで効果的である。
こうした話し合いを始める場合、できるだけ、あらかじめ自治体の住宅課や建築課などのマンションを担当する部署に相談をし、話し合いや勉強会などに関与してもらうことができれば、区分所有者のなかに生じやすい疑心暗鬼を防ぐうえで効果がある。自治体にとしても第一世代のマンションがスラム化するなど、行政の負担になることは望ましくないから、柔軟に対応してくれるはずである。
勉強会での「話し合いの手順」とは?
終活と再生の話し合いの手順に一例を示すと以下のようになる。
①マンションの10年後をイメージする
・耐震のことはひとまずおいて、建物・設備の現状について、毎日の暮らしのなかで実感していることは何か。
・現状のままで10年間経過した場合の状況はどんなものか。
・耐震性に不安を抱えた状態を続けていていいかどうか。
こうした話し合いのなかで、このまま何も決めることができず、現在の状態が続けばおそらく10年を待たず資産価値を失う可能性があるとともに、資産と暮らしを守るためには、いろいろな選択肢があることも共通認識にする。
②改善策を具体的に考える
・10年後の暮らしに必要な工事について、金額のことも含めて考える。
・耐震改修や建て替えについての、基礎知識の提供やアドバイスを自治体に要請する。
③耐震改修や建て替えをするために必要な金額を知って、実際に可能かどうかを話し合う。
④耐震改修や建て替えができる見通しがあれば、具体的に検討する。できる見通しがたたなければ、一括売却について検討をする。