※写真はイメージです。本文、書籍とは関係ありません。

今回は、マンション建て替えの成否を決める「余剰容積の有無」について説明します。※本連載では、飯田太郎氏、保坂義仁氏、大沼健太郎氏の共著、『人口減少時代のマンションと生きる』(鹿島出版会)の中から一部を抜粋し、老朽化した第一世代のマンションの「終活」と「再生」の具体的な進め方について解説します。

区分所有者の意見がまとまりやすい「保留床の売却」

これまでの建て替えが行われたマンションは、旧住宅公団や地方住宅供給公社が分譲した団地など余剰容積のあるものが多い。余剰容積を活用する建て替えは、従来の建物よりも規模の大きなマンションをつくることができるため、一部の住戸を保留床(※)としてデベロッパーに売却することで事業費をまかなうことができる。

 

区分所有者は直接費用を負担しない、あるいは少ない費用負担で建て替え後のマンションを手に入れることができることになる。この方式は、表面的には資金を負担しないで建て替えができたように見えるが、実際は、区分所有者が従来もっていた土地の権利の一部を売って、その代金を建物工事費などの事業費に充てることになる。

 

しかし、土地の持ち分が減ることは表面化せず、区分所有者が直接建て替え費用を負担することがないか、少ない負担で建て替え後のマンションの住戸を手に入れることができるため、区分所有者の意見が比較的まとまりやすくなる。

 

保留床の売却代金で事業費をどこまでまかなうことができるかは、余剰容積がどの程度あるかによって決まる。従前のマンションの建物の大きさに比べて敷地が広く余剰容積が多ければ、区分所有者は表面的には資金をまったく負担せずに建て替えをすることができる。

 

※市街地再開発事業やマンション建て替え事業によって新たに生み出された住戸などで、再開発組合や建て替え組合に帰属する。

デベロッパーの協力が欠かせない建て替え事業

余剰容積がそれほど多くなければ、区分所有者が事業費の一部を負担することになるが、共同建て替えや再開発事業などを行うことで容積率規制が緩和されたり、公開空地を設け容積率の割り増しを受けることで保留床が増え、区分所有者の事業費負担が減ることもある。

 

余剰容積率を利用して建て替え事業を行うためには、建て替え事業によって新たに生み出された住戸を販売することになるから、分譲事業に精通したデベロッパーの協力が欠かせない。建て替え後のマンションが高く販売できることは、事業の採算性を上げることになる。デベロッパーのノウハウを生かして付加価値の高いマンションを建設することは区分所有者にとっても利益になる。

 

事業上のメリットが大きい建て替え事業の場合は、デベロッパー側も合意形成をスムーズに進めるため建て替え計画案や事業計画の作成はもちろん、初期段階での管理組合の検討、権利調整、権利変換といった建て替え事業にともなうさまざまな実務に積極的に協力することになる。

 

事業を進める過程で必要になる資金を調達するうえでも、デベロッパーの協力が欠かせない。余剰容積を生かして実施するマンション建て替え事業は、区分所有者が敷地を提供し、デベロッパーが資金を提供する共同事業として行われるのが普通である。これまでの建て替えの成功事例の多くは区分所有者が資金を負担する必要がなく、デベロッパーの協力も得やすい余剰容積のあるマンションである。

 

このためマンションは自己負担なしで建て替えができるという誤った通念が広まり、自力による建て替えについての真剣な議論を阻害する要因にもなっている。

本連載は、2015年8月20日刊行の書籍『人口減少時代のマンションと生きる』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

人口減少時代の マンションと生きる

人口減少時代の マンションと生きる

飯田 太郎 保坂 義仁 大沼 健太郎

鹿島出版会

10人に1人が暮らすマンションに、やがて迫り来る住民とマンションの「2つの老い」。 管理会社任せにせず自分たちで考える、維持管理から資産管理、コミュニティ、そして「終活」まで。マンションとの生き方を真摯に考える一冊…

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