耐震改修が避けられない「第一世代後期」マンション
1972〜80年に分譲された第一世代後期に属する旧耐震マンションは、3回目の大規模修繕に向けた準備に入る時期が多い。耐震性には当然問題はあるが、管理状態により居住性にはかなりの差がある。グレードアップ工事などを実施することで良好な居住性を維持しているマンションがある半面、老朽化・陳腐化が著しいこともある。耐震改修をすることで長寿命化をはかるのか、建て替えや一括売却を考えるかが問題になる。
この時期のマンションは、エレベーターや配管などの更新時期を迎えるため修繕費がかかるが、それに対応する修繕積立金が不足していることもある。3回目の大規模修繕を行うだけでも、一時金の徴収、修繕積立金の引き上げ、融資を受けるといった資金づくりが必要になることもある。
区分所有者の高齢化も進みつつあり、今後の維持管理・修繕にも不安があるため、多様な選択肢があることを理解して、検討する気運を育てるようにする。
修繕積立金が不足するため必要な修繕・改修が行われない場合は、老朽化や陳腐化が急速に進行することとなる。しかも、余剰容積があるマンションを除けば、建て替えには多額の費用負担が必要となる。
建て替えや一括売却も視野に入れ、将来の展望を共有したうえで、当面の課題である耐震改修と3回目の大規模修繕工事を検討する必要がある。
第一世代前期のマンションほど事態は切迫していないが、耐震改修を避けることができないことを、まず共通認識としたい。
終活と再生にむけた話し合いの内容は第一世代前期のマンションと同じだが、検討の基礎となる、次のような調査や検討をすることで合意形成が容易になる。
自治体が支援の仕組みを設けていることも多いので、活用するようにしたい。
①建物や設備の調査・診断の実施(必要に応じて耐震診断を含む)
②区分所有者とその家族のニーズの調査(アンケート調査、ヒアリングなど)
③耐震改修を含む長寿命化計画の策定と費用の算定
④修繕・改修以外の再生手法の検討(建て替えなどの事業性の簡易な検証)
⑤長期修繕計画と修繕積立金の見直し
費用負担が困難な区分所有者への対応策
耐震性への不安を抱えたまま老朽化が進んでいる第一世代のマンションには、残された時間は多くない。建て替えに向けた検討を始めるためには、資金の問題を解決する必要がある。特に重要なのは、費用負担が困難な区分所有者への対応である。
①高齢者向け特例返済制度
住宅金融支援機構の「高齢者向け特例返済制度」は、60歳以上の区分所有者がマンションを建て替える場合に、1,000万円を限度に融資を受け、借主が死亡した時点で担保とした住戸を処分して一括返済するもので、毎月返済額は「利息のみ」となる。
借り入れ申し込み時に満60歳以上の同居する親族を、連帯債務者とすることもできる。申し込み本人が先に死亡した場合でも、連帯債務者が月々の返済を継続することで、元金を一括返済せずに住み続けることができる。費用負担が困難な区分所有者が利用することで、建て替えに参加できる可能性が広がる。
②定期借地権(※)付きマンションへの転換
建て替え後のマンションの底地権を公的機関などに取得してもらい、定期借地権付きマンションとすることで、区分所有者の費用負担を減らすことができる。
※―定期借地権は借地借家法で保護される期限付きの土地利用権である。建て替えをする場合、公的機関や事業協力者に土地を売却した資金を事業費にあてることができる。建て替え後のマンションの区分所有者は土地の固定資産税は課税されないが、地代を土地所有者の支払う必要がある。
③区分所有者の権利を公的機関が取得
費用負担が困難な区分所有者の権利を公的機関が取得し、再生後の住戸を従前の区分所有者に賃貸する方法をとることで、住み慣れた地域やコミュニティでの居住継続をできるようにする。ただし、こうした方法を実現するためには費用負担困難者の区分所有権を取得し、長期に保有し続けることができる主体が必要になる。この主体としては、公的機関のほかに、一般の投資家や、区分所有者の有志が設立する法人などが考えられる。
④公的賃貸住宅への入居
費用負担が困難な区分所有者等の居住の安定と生活再建とを図るための、自治体による公的賃貸住宅のあっせん制度もある。
⑤一括売却制度の活用
管理組合が一括売却決議をする前に、買い受け人であるデベロッパーなどが作成する買い受け計画には、代替住宅の提供なども定めることになる。建て替えの費用負担困難者が多いことでの終活と再生の検討が進まない場合は、一括売却制度の活用を考えたい。