(※写真はイメージです/PIXTA)

老親がお風呂に入りたがらず、「うちの親、もしかして認知症かも…?」と悩む人は少なくありません。しかし、65歳以上で発症する老年性の認知症は、約10年ほどかけてゆっくり進行する場合がほとんど。つまり、疑うべきは別の病気なのです。本記事では和田秀樹氏の著書『老化恐怖症』(小学館)から一部抜粋し、認知症疑惑のときに役立つ情報を解説します。

わかりづらい「うつ」と「認知症」の違い

「うつ」と「認知症」はまったく違う病気ですが、症状には似通った点があります。実際、家族が認知症を疑って病院を受診したところ、結果はうつ病だったというケースはよくあります。

 

「なんとなく元気がない」「一日中ぼーっとしている」など、初期症状が似ていることから、医師でさえ診断を間違えることがあるほどですが、私が診察時に注意するのは、次のような点です。

 

「症状がいつごろ始まったか」と聞いて、本人や家族がはっきりと時期を言える場合は、うつ病の可能性が高いでしょう。先述したとおり、老人性の認知症は時間をかけて進行することが多いため、「いつ始まったか」がはっきりしないことが多いものです。

 

一方、うつ病はある時を境に急に症状が出るので、いつごろ始まったかがわかることが多い傾向があります。

 

さらに、「物忘れが増えて困っている」など本人に自覚症状がある時も、認知症よりうつ病が疑われます。

 

一般的に認知症の人は、物忘れが多いことに自分ではあまり気づいていません。病識が欠如していることが多く、記憶障害があっても不安を感じず、けろりとしています。

 

そのほか、食欲が急になくなったりするのと同時に、「夜中に目覚めてしまう」など不眠の症状を訴える場合も、うつの大きなシグナルといえます(認知症の人は食欲が増すケースが多く、長く寝すぎる傾向があります)。

 

さて、「風呂に入らなくなった」親御さんがうつ病だった場合、適切なカウンセリングや投薬治療により、症状を改善したり、やわらげることが可能です。

 

老人性うつは早期に発見し、治療を開始すれば、抗うつ薬が良く効き、80〜90%くらいの確率で治ります。うつ病の症状が良くなれば、自ら進んで風呂に入ったりもできるようになるでしょう。

 

なお、認知症を発症すると、初期の頃にうつを併発する傾向もあるので、注意が必要です。アルツハイマー型認知症の場合、初期のうちに20%の人がうつになるとの研究報告もあります。認知症を発症したことがわかり「人生終わった」などと必要以上に落ち込むと、余計にうつを併発しやすくなるのです。

 

認知症が原因で風呂に入らなくなったケースはどうでしょうか。

 

認知症が原因であれば、要介護度1か2と判定されるはずなので、公的介護保険でデイサービスを利用すれば、そこで入浴させてもらうことができます。

 

物忘れから認知症が始まり、数年かかって風呂に入らなくなる段階は、認知症としては中期を過ぎていると言えるので、介護認定を受ければ、十分サービスの対象にはなるでしょう。

 

清潔好きな日本人だからこそ、「お風呂に入らなくなった」と心配になる気持ちもわかりますが、代謝が落ちた高齢者の場合、毎日風呂に入らなかったとしても、直ちに不潔になるわけではないことも、付け加えておきます。

 

 

和田 秀樹

精神科医

 

※本記事は『老化恐怖症』(小学館)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

 

 

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