“PBR1倍割れで自社株買い”→かえってPBRは「低下」する?
時折、「PBR1倍割れで自社株買いを実施すると、かえってPBRが低下する」という話が聞かれます。筆者もなんとなく「そうだろうな……」と思っていました。
結論をいえば、「PBR1倍割れで自社株買いを実施すると、PBRが低下する」と考える場合、「自社株買いの金額と同じ分だけ、時価総額が減少する」、言い換えれば「自社株買いによっても株価は不変」と仮定しているようにみえます(→厳密にいえば、①株価は理論値ほど上昇しないとの仮定、もしくは、②その企業全体の資産収益率よりも、収益率が高い資産や事業を取り崩して自社株買いが実施されるとの仮定です)。
たしかに「自社株買いによっても株価は不変」との仮定を置くと「PBR1倍割れで自社株買いをすると、PBRが下がる」ことが導けます。[図表1]がその数値例です。
たしかに、PBRは低下しています。しかし、大事なポイントはROEも低下しているという点です。
「自社株買いによってROEが低下する」ということは、「自社株買い前の資産全体のROA」よりも、ROAが高い事業を選択・売却して自社株買いを実施しているということにほかなりません。収益率が高い資産や事業を売却してしまうと、その会社の収益率は低下します。そんなことをしたら、会社の評価が下がるのは当然のような気がします。
合理的な経営者ならば、「自社株買い前の資産全体のROA」よりも、ROAが低い事業を選択・売却して自社株買いを実施するでしょう。
したがって、「自社株買いの金額と同じ分だけ、時価総額が減少する」、言い換えれば「自社株買いによっても株価は不変」との仮定は、筆者には不思議に映ります。
以下では、PBR1倍割れに絞り、負債調達と資産売却の場合に分けて、合理的な想定の下での自社株買いを実施したときに、PBRがどうなるかを数値例で確認します。
ケース1.「負債の発行」で自社株買いを行う場合
1つめのケースとして、負債の発行で自社株買いを実施する場合、調達手段を株式から負債に置き換えているだけで、企業の保有資産の金額や中身に変化はありませんから、企業の生産活動や企業が生み出す利益に変化はありません。
「時価総額=株価×株数」で測った企業価値は変わらず、株数が減少する分だけ、株価は上昇すると期待されます。たとえば、株数が「0.9倍」になると、株価は「1/0.9倍」上昇するといったイメージです。
[図表2]がその数値例です。事業に影響はないため「純利益」の水準は変わらず、自社株買いで「自己資本」は減りますから(→ただし、「株数」はもっと大きく減るため)、「1株利益の上昇率」は「1株純資産の上昇率」よりも高く、「1株利益の上昇率」=「株価の上昇率」ですから、「PBR=株価/1株純資産」は上昇します。