(※写真はイメージです/PIXTA)

現在、老齢年金の受給開始年齢は「65歳」となっていますが、繰上げ受給・繰下げ受給の制度を使うことで60歳から75歳までのあいだで前倒ししたり先延ばししたりすることができます。この際、「繰下げ受給」をすると受給額が増額されるため、「たくさんもらえるに越したことはない」と安易に決断すると、逆に家計状況が苦しい事態に陥りかねないと、牧野FP事務所の牧野寿和CFPはいいます。事例をもとに、その理由について詳しくみていきましょう。

70歳まで繰下げ受給したAさんが「後悔」したワケ

現在72歳のAさん(昭和27年1月生まれ)は、5歳下の妻Bさん(昭和31年10月生まれ)と2人暮らしです。

 

Aさんは60歳で定年退職し、その後5年間は同じ会社に再雇用され勤めました。Bさんは現在は専業主婦ですが、結婚後子どもが生まれるまでは会社員として働いていました。したがって、夫婦ともに老齢厚生年金を受給することができます。

 

Aさんの60歳から72歳までの家計の推移は次のとおりです。

 

出所:筆者が作成 ※1 「特別支給の老齢厚生年金」は男性は昭和36年4月1日以前、女性昭和41年4月1日以前生まれの人が受給対象。受給の繰上げも繰下げもできない。  ※2 加給年金は、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人に生計を維持されている配偶者(厚生年金に20年未満の加入)が、自身が65歳(年金受給開始年齢)になるまで受給できる年金のこと。金額は39万7,500円(令和5年度)。  ※3 振替加算の対象となる妻は、昭和41年4月1日生まれまで。満65歳になり老齢基礎年金を受給するときに、その夫が加給年金の受給対象者であり、妻の厚生年金保険加入期間が240月未満であれば、老齢基礎年金に生涯加算される。この加給年金についても繰上げ・繰下げともに不可のため、65歳から老齢厚生年金といっしょに受給する。Aさんは70歳まで年金受給を繰下げたため、加給年金5年分(198万7,500円)の加給年金は停止となった。また老齢基礎年金を繰上げ受給しても、本来の加算時期65歳から繰下げ受給するときは、受給するタイミングから増額されずに受給できる。
[図表3]A家の老後の家計 出所:筆者が作成

※1 「特別支給の老齢厚生年金」は男性は昭和36年4月1日以前、女性昭和41年4月1日以前生まれの人が受給対象。受給の繰上げも繰下げもできない。

※2 加給年金は、厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある人に生計を維持されている配偶者(厚生年金に20年未満の加入)が、自身が65歳(年金受給開始年齢)になるまで受給できる年金のこと。金額は39万7,500円(令和5年度)。

※3 振替加算の対象となる妻は、昭和41年4月1日生まれまで。満65歳になり老齢基礎年金を受給するときに、その夫が加給年金の受給対象者であり、妻の厚生年金保険加入期間が240月未満であれば、老齢基礎年金に生涯加算される。

 

60歳時点では、退職金を含めて1,500万円の貯蓄があったAさんですが、65歳~70歳のあいだで孫の誕生祝いや冠婚葬祭など出費がかさみ、70歳時点での貯蓄残高は120万円にまで減っていました。

 

しかし、支出というと生活費と社会保険料(国民健康保険料や介護保険料)の納付くらいのもので、Bさんの「特別支給の老齢厚生年金」についても課税されるまでの金額ではなかったため、負担はそれほど気になりませんでした。

 

70歳になれば、繰下げた年金とBさんの年金を合わせて月額約35万円受給できることから、「また生活に余裕が出てくるだろう」と思ったそうです。

 

ところが……。

 

夫婦の年金収入が増えたことから、その翌年から所得税や住民税、社会保険料の金額が上がってしまったのです。収入が増えたはいいものの、結果的に支出も増え、年金を繰り下げた効果は期待していたほどありませんでした。

 

「せっかく繰り下げたけど、このままでは破産してしまうかも……」困ったA夫妻は、今後の生活をどうしたらいいのかわからなくなり、筆者のFP事務所を訪れました。

 

 

次ページ愛する妻を想って「繰下げ受給」を決断したAさん

※プライバシー保護の観点から、登場人物の情報を一部変更しています。

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