「公的年金」は、老後資金の最重要な柱のひとつ
政府が投資を推奨しているいま、「老後資金が足りないから投資で増やそう」と考える人も多いと思います。しかし、投資で増やす前にやるべきことは多数あります。働いて収入を増やすこと、生活を見直して無駄な費用を削ること、老後資金の重要な柱である公的年金を大事にすること…などです。
公的年金は老後資金の最重要な柱のひとつであるのみならず、老後資金の最大のリスクである「長生きしている間にインフレが来て老後資金が枯渇してしまう」ことへの備えとしても大変頼もしい存在です。どんなに長生きをしても払ってもらえますし、インフレが来れば原則としてその分だけ受取額が増えるからです。
「公的年金を大事にする」には、自営業者等は年金保険料をしっかり払うことです。未払いがあると老後に受け取れる年金額が減ってしまいますから。
サラリーマン(男女を問わず、公務員等を含む。以下同様)は年金保険料が給料天引きですから、未払いは考えにくいですが、定年後も働いて年金保険料を払い続けること、専業主婦(主夫を含む、以下同様)もパート等で働いて収入を得るとともに、厚生年金に加入できる働き方を選択すること、などを心がけるとよいでしょう。
基本、老後の年金は「繰下げ受給で充実させる」のがお勧め
上記に加えて、本稿では「年金の受取開始時期を遅らせることで、毎月の年金受取額を増やす」ことを検討すべきだと考えます。公的年金は65歳から受け取り始めるのが一般的ですが、受取開始時期は60歳と75歳の間で選べます。当然、早くから受け取り始めれば毎月の支給額は少なくなりますし、待ってから受け取れば毎月の受取額は増額されます。
目処としては、5年間待って70歳から受け取ると、毎月の支給額が42%増えますので、自営業者夫婦だと月額13万円強が18万円強に増え、標準的なサラリーマン夫婦だと月額22万円が31万円強に増えるというイメージです。
75歳まで待てば毎月の受取額が84%増えますので、70歳時点で健康で長生きする自信があれば、そして年金を受け取らなくても生活できるだけの蓄えがあれば、もう少し待ってみるという選択肢も検討してみましょう。
繰下げ受給を選ぶ理由は「保険だから」
気になる損得ですが、65歳時点の平均余命まで生きたとすると、70歳まで待った方が得になる計算です。まあ、計算しなくても「制度ができたときには平均余命でトントンにしてあるだろうから、その後に平均余命が伸びたことを考えれば、待った方が得だろう」という推測は可能でしょう。
加えて、70歳くらいまで働いて収入を得ようという人は、年金と給料の合計に課税されてしまうと税率が高くなりかねないので、70歳まで待って年金を受領した方が節税になるかもしれません。あるいは、70歳までは企業年金があるという人も、同様に公的年金は待つほうが得かもしれませんね。
筆者は65歳を過ぎても年金を受け取っていないのですが、主な理由は損得ではなく「保険だから」です。「65歳から受け取れるはずだった年金を保険料として払い込み、70歳以降に多くの年金を受け取る」という保険だと考えているわけです。
火災保険は、火事にならなければ保険料が損ですし、公的年金の受給後ろ倒しは、早死にすれば損です。しかし、火災に遭うリスクや長生きをしている間に老後資金が底を突くリスクを回避するために加入するのです。
火災保険は、確率的には損な取引なのでしょうが、多くの人が加入しています。それなら、確率的に得な「保険」への加入も検討すればいいと思いますよ。
「年の差婚」なら、繰下げ受給ナシがいいかも…FP等に相談を
もっとも、延長しない方がよいケースもあるので、各自が慎重に検討する必要があります。たとえば「病弱で健康に自信がない」という人は、60歳から年金を受け取り始めて、楽しい余生を過ごす方がいいかもしれません。
あるいは、サラリーマンの専業主婦が配偶者より大幅に若い場合には、加給年金というものが受け取れる可能性がありますが、サラリーマンが厚生年金の受取開始を遅らせてしまうと加給年金が受け取れなくなってしまうかもしれません。その場合には、サラリーマンの厚生年金は65歳から受け取り、国民年金(老齢基礎年金)だけ繰り下げる、といった選択肢も要検討でしょう。
年金制度はいろいろと複雑ですから、多少の相談料を支払ってもファイナンシャルプランナーや社会保険労務士といったプロに相談してみるといいかもしれません。思いもよらないアドバイスがもらえる可能性もありますから。
余談ですが、筆者は相談料を払ってプロに相談することに前向きです。病気のときは医師の診察を受けるわけですから、それと同じ感覚で、納税のときには税理士に相談します。過去に何度も税理士から思ってもみなかったことを教えてもらい、支払った税理士費用を大幅に上回る節税効果を経験していますから。
本稿は以上ですが、意思決定は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があり得ます。
塚崎 公義
経済評論家
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