(※写真はイメージです/PIXTA)

「誰よりも自信があったから成功できた」という言葉を見聞きくと、成功するためには自信が必要であるように思います。成功した人たちはみんな自信を持っていたのでしょうか? 著書『「自信」がないという価値』(河出書房新社)よりトマス・チャモロ=プリミュージク氏が、本当に自信がある人について解説します。

「ナルシシスト」という言葉の語源

ナルシシズムとは、自分を非現実的なほど高く評価し、根拠のない自信であふれている状態だーたとえば、ドナルド・トランプやパリス・ヒルトンを思い出してもらいたい。

 

自己愛が過剰なナルシシストたちは、自己中心的で、つねに自分が誰よりも上だと思っている。他人からネガティブなことを言われてもまったく意に介さず、苦言を呈されても聞く耳を持たない。ナルシシストは他人を操るようなところがあり、自分の利益のために平気で他人を利用する[注2:見開き内に注釈がない場合は巻末の本文注を参照]

 

「ナルシシスト」という言葉の語源は、ギリシャ神話に登場するナルキッソスという美少年だ。彼はいつも自分のことばかり考え、他人を思いやるということがまったくなかった。その利己的な態度を罰するために、女神ネメシスはナルキッソスを池のほとりに呼んだ。ナルキッソスは池の水面に映った自分の姿を見ると、それが自分だとは知らずにすっかり恋に落ちてしまった。

 

この話の結末は何種類かある。一つは、水面に映った自分にキスをしようとしたときに、池に落ちて溺れて死んでしまうという結末だ。または、水面に映った自分にすっかり夢中になり、死ぬまで自分にしか興味を持たなかったという結末もある。

ナルシシズムが高まるアメリカ

現代はナルシシズムの時代であり、この説を裏付ける理由はたくさんある。そもそも自信の低さが悩みの種になるのも、非現実的なまでの過剰な自信がもてはやされているからだろう。特にアメリカでは、ここ数十年の間に、ナルシシズムの度合いがどんどん高まっている。『自己愛過剰社会』(河出書房新社)の著者で、心理学者のジーン・トウェンギは、長年にわたってアメリカで過剰な自己愛が蔓延していく状況を観察してきた。

 

たとえば、アメリカの数百の大学に通う四万人以上の学生に関するデータを集め、時代ごとの傾向を分析するという研究を行っている。1950年代では、自分を「重要な人物」だと考える学生は全体のわずか12%だった。それが1980年代になると80%にまで増えている。

 

また、1982年から2006年の間だけでも、自己愛が強い傾向にある学生は、15%から25%に増えた。男女別で見ると、女子学生のほうが増加率が高かった。女性は男性よりも謙虚で控えめな傾向があると考えられていたので、これはかなり意外な結果だ。

上昇しているのは「自信」の度合いだけではない

「自信」の度合いを測る一般的な基準として用いられる「自尊感情」も、ここ数十年で飛躍的に高まっている。2006年の調査では、80%の学生が、1988年の平均よりも高い自尊感情を持っていることがわかった。

 

さらに気がかりなのは、アメリカ国立衛生研究所が行った大規模な調査によると、20代のアメリカ人の10%が、重度の自己愛傾向の症状を見せていることだ。60代のアメリカ人では、その数はわずか3%になる。

 

この傾向をどう判断するかは難しい。攻撃性、欲、不安、IQなど、自己愛以外の精神的な性質についてはデータがないので、自己愛の上昇と比べることができないからだ。たしかに数千年単位で見れば、人間はそれほど変わらない。

 

自己愛のレベルと同程度に増加しているものを他にあげるなら、肥満のレベルだろう。これは1950年から2010年の間に200%以上増加している。とはいえ肥満の場合は、自己愛と違って数値で測ることができるので、現実的な健康問題としてきちんと認識されている。一方で自尊感情のようなものは、客観的に観察して数値化することはできない。そのため自己愛の増加は、肥満の増加と比べてわかりにくい現象になっている。

 

自己愛が高まったことで、幸福度も上昇しているなら問題はない。しかし実際はポジティブな自己イメージに異常なまでに執着し、非現実的なほどに自信がありすぎる人たちが増加しただけだ。たとえば最近の風潮であるセレブ崇拝も、自己愛型人間の増加で説明できる。世界中の何百万もの人々が、パリス・ヒルトン、サイモン・コーウェル、レディー・ガガのようになりたがっている。

 

また、ソーシャルメディアの普及によって、誰もがちょっとしたスター気分を味わえるようにもなった。別にレディー・ガガにならなくても、朝食の写真を投稿したり、「飼い猫が病気になった」、「ジムでいい汗を流した」とつぶやいたり、スターバックスでチェックインしたりできる。唯一の違いは、あなたはレディー・ガガではないということだけだ。

 

 

トマス・チャモロ=プリミュージク

 

社会心理学者/大学教授

 

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授

コロンビア大学教授

マンパワーグループのチーフ・イノベーション・オフィサー

 

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※本連載は、トマス・チャモロ=プリミュージク氏による著書『「自信」がないという価値』(河出書房新社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「自信がない」という価値

「自信がない」という価値

トマス・チャモロ=プリミュージク

河出書房新社

本書は、ロンドン大学・コロンビア大学教授にして人材・組織分析の権威が 社会心理学研究に基づき、”自信のなさ”の美点とそれらを武器にする戦略を解説する。 ・自信のある人はたいてい勘違いしている ・自信のなさはあ…

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