香港人の6.8%が中国に“北上”…いったいなぜ?
昨年のクリスマスシーズン。香港と中国のボーダーは香港人でごった返した。12月23日に中国を訪問した香港人は26万2,800人に上り、2023年の単日最高記録を更新。翌24日は23万3,200人だった(高速鉄道の西九龍駅、羅湖口岸、落馬洲の3つの出入境ポイントの合計)。
香港の人口は733万人なので、この2日間で市民の約6.8%が中国に向かったことになる(日帰り客によるダブルカウントも含む)。香港人の“北上”はなにを意味しているのだろうか。
高速鉄道でわずか1時間…休日に“国境越え”はよくある光景
香港人が週末や連休に中国をプチ訪問するのは、なにもいま始まったことではない。筆者が香港に住んでいた20年ほど前、知り合いの香港人がよくお隣の深センに赴いていた。
足つぼマッサージで日頃の疲れを癒し、地元グルメも堪能。ボーダーでのチェックがあるため“国境越え”感はあるものの、地下鉄やバスを乗り継げば香港市内から2時間足らずで深センに着く。いまは高速鉄道を使えば、待ち時間を含めても1時間程度で移動できる。
“コロナ前”には、中国人が大挙して香港に行き、高級品から日用品まで「爆買い」するのが日常の光景だった。足元でもその動きが戻りつつあるものの、まだ想定以下という。この状況下で「香港人の中国行き」が目立っている。
タクシー初乗り料金は300円の差…物価面で割安な中国
深センの域内総生産(GDP)は17年に香港を超えたとされるが、中国はまだ物価面で割安だ。卑近な例で恐縮だが、ラーメン店の一風堂で「赤丸新味」を食べると、香港では62香港ドル(約1,160円)、中国では48元(約979円)。
地下鉄の最安運賃は5香港ドル(約94円)vs.2元(約41円)、タクシーの初乗り料金は27香港ドル(約505円)vs.10元(約204円)となる(地下鉄とタクシーは深センの料金)。
米ドルとペッグする香港ドルの対人民元レートは、ここ2年間で10%超上昇し、為替面でも購買力が増している。23年以降、香港のCPI(消費者物価指数)上昇率はおおむね前年同月比2%前後で推移するが、中国はマイナスに陥ることもあるなど対照的だ。
最近では深センにある会員制量販店をわざわざ訪れる香港人も増えているそう。米ウォルマート系の「サムズクラブ」や、1月12日に深センに初出店した「コストコ」が代表格だ。香港の旅行会社が催行する「サムズクラブ買物ツアー」は大人気だという。
中国側も香港客の誘致を強化
受入側の中国も香港旅客の誘致を強化している。深セン市は、市内の一部エリアで香港・マカオ市民向けの消費クーポン配布を奨励。香港の交通系ICカード「八達通(オクトパス)」や「支付宝香港(アリペイホンコン)」の利用範囲も拡大しており、香港市民はストレスなくキャッシュレスで移動や買い物ができる。
もっとも、香港にとっては域内消費が中国に持っていかれるため痛し痒し。お金は常に落ちるところを探しているのだろうか。「カネは世につれ世はカネにつれ」(?)とはよくいったものである。
奥山 要一郎
東洋証券株式会社
上海駐在員事務所 所長
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